インドネシアの移転価格税制① ~OECDのBEPSプロジェクト~

2017 年 3 月 9 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。近年、全世界的に移転価格税制(関連会社間の利益の付け替えを規制する税制)が厳しくなるなか、ついにインドネシアにおいても移転価格税制の改正がありました。今後インドネシアにおいても移転価格のドキュメンテーションが必要となりますので、準備ができていない方はお早めにご連絡ください。

さて、インドネシアにおける移転価格税制の改正によって益々身近に考えなければならなくなってしまった移転価格税制を、今回からシリーズものとして執筆していこうと思います。「何故、移転価格税制の改正があったのか?」「BEPSプロジェクトとは一体何か?」「インドネシアの税制改正の具体的な内容はどのようなものか?」「移転価格のドキュメントはどのような方法によって作成するのか?」「移転価格税制の金額的なリスクはどれくらいになるのか?」このような皆様が気になるテーマを毎週お伝えしていきますので、是非、ご一読ください。

それでは早速内容に入っていきましょう。なぜ今回インドネシアにおいて「移転価格税制」が大幅に改正されたのか、まずはその背景を“OECDのBEPSプロジェクト”の説明と共にしていきます。

 

■OECDのBEPSプロジェクト

皆様は“ダブルアイリッシュ&ダッチサンドウィッチ”という節税スキームを聞いたことがありますか?

“ダブルアイリッシュ&ダッチサンドウィッチ”とは、アイルランドとオランダの(使用料課税がない)租税条約を利用し、アメリカで得た利益を無税でタックスヘイブン(法人税の税率が0%)である英国領バージン諸島に移転するというアメリカの大手IT企業が利用していた国際的にも有名な節税スキームです。OECDモデル条約の場合には、基本的に使用料課税(基本的に10%)はありますが、国同士の租税条約なのですべての国で同じ内容ということは今まではありませんでした。

BEPSプロジェクトについては、このような各国の国内法及び租税条約の違いを利用した節税スキームをアメリカの大手企業がこぞって取り入れたことから端を発します。

アメリカの大手企業によって利用されたこれら節税スキームはアメリカ国内において大きな問題とされてきました。ただし、アメリカ国内でいくら問題になろうともアイルランドとオランダの租税条約についてアメリカが口出すことは難しいために、アメリカは2012年6月にOECD(Organisation for Economic Cooperation and Development:経済協力開発機構)の租税委員会本会合にて、税源浸食と利益移転(通称:BEPS「Base erosion and profit sifting」)が法人税収を著しく喪失させているとの問題提起(合法であるために、国際課税原則を見直す必要性の提言)を行い、同年11月にBEPSプロジェクトが発足したのがすべてもの始まりです。

その後も、2013年6月にBEPSにおける行動計画が公表され、現在では15の行動計画における最終パッケージの公表までが完了(行動計画⇒第一次提言⇒討議草案公表⇒最終パッケージ公表)し、この最終パッケージを基に各国の国内法が再度整備されているという状況にまで話が進んでいます。

つまり「全世界統一のルールを作り、タックスヘイブン国を含む他国へのむやみな利益の付け替えを防止し、併せて課税所得の浸食を防止しましょう!」という目的の下に各国が統一のフレームワークを作り、それを基に国内法が整備されているのです。このフレームワークこそが“15の行動計画(Action Plan)”になります。

※国際会計基準(IFRS)の税務版とイメージしてもらえればと。現在は多くの国の会計基準がIFRSに準拠したものと変わっていると思いますが、国際税務基準もこのBEPSに準拠したものに変わることが既に起こり始めているのです。

このBEPSプロジェクトですが、2017年3月現在の参加する国・地域の数は94にも上ります。インドネシアは、この94の国・地域に含まれており、この度の改正はこのBEPSプロジェクトによるものであると分かります。2015年に行動計画の最終パッケージが公表され、その後このBEPSプロジェクトに参加する各国は粛々と国内法を整備してきました。例えば、この移転価格の文書化を規定した行動13の最終パッケージは2015年10月5日に公表されたのですが、中国ではこの最終パッケージに合わせた移転価格文書の改正草案を2015年9月17日(同年10月16日までパブリックコメント募集)に公表、日本においては2016年度の税制改正に合わせて公表(2015年12月16日)しています。

今回のインドネシアのNOMOR213/PMK.03/2016(通称:PMK213)の発行は、その内容を確認してみたところ、この中国や日本での改正内容に合わせた改正であることが見て取れます。

まずはPMK213を確認する前に、このBEPSプロジェクトの15の行動計画の確認からしてみます。15の行動計画のタイトルをそれぞれ挙げてみようと思います。

 

■BEPSプロジェクトの15の行動計画(最終パッケージ)

参考(国税サイト):https://www.nta.go.jp/sonota/kokusai/beps/index.htm

行動1:電子経済の課税上の課題への対処

行動2:ハイブリッド・ミスマッチ取極めの効果の無効化

行動3:外国子会社合算税制の強化

行動4:利子控除制限ルール

行動5:有害税制への対抗

行動6:租税条約の濫用防止

行動7:恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止

行動8-10:移転価格税制と価値創造の一致

行動11:BEPSの規模・経済的効果の分析方法の策定

行動12:義務的開示制度

行動13:多国籍企業の企業情報の文書化

行動14:相互協議の効果的実施

行動15:多数国間協定の策定

 

この中の“行動13”に移転価格の文書化のルールが記載されています。今までは一層構造(ポリシーを作成している場合には二層構造)であった移転価格の文書化を三層構造にまで引き上げ、むやみな所得移転を防止しています。

具体的には行動13において、新たな文書化ルールとして、マスターファイル、ローカルファイル、CbCレポート(Country By Country Report:国別報告書)の三つのレポートを作成すべきであると提言しています。ちなみに今までの移転価格文書と呼ばれていたものは“ローカルファイル”に該当します。

このようにアメリカのIT企業がむやみな租税回避を繰り返していたことが原因で全世界的に移転価格税制のルールを見直さなければならなくなり、今回のインドネシアの改正につながっているのです。本来はビジネスがありきで、副次的な位置づけであった移転価格税制が全世界統一ルールとなることによって規定が先行し、ビジネスによる値付けから、移転価格による値付けをしなければならないと考えているお客様が多いような気がしています。ただし、ビジネスで利益が出ているのであれば、それは正常な経済活動であり、値付けが間違えているなどとは本来はいうことはできません(関連会社取引と同様の第三者取引があり、値段が別の場合などはもちろん除きますが・・・)。赤字企業である場合、業種別の平均利益率に比して自社の利益率が低い場合、このような場合には特段の理由がなければ移転価格リスクはありますが、それ以外の皆様はそこまで焦る必要はありません(もちろん法に則ってドキュメントは保存しなければなりませんが)。

 

今後は、更に詳しく移転価格税制について切り込んでいこうと思っています。次回は、この①マスターファイル、②ローカルファイル、③CbCレポート、これらのドキュメントについて、BEPSプロジェクトではどのような記載が求められているかを解説します(基本的には、BEPSプロジェクトにより定められたこれらのドキュメントの記載内容をインドネシアにおいても利用しています)。※今後は毎週金曜日に「インドネシアの移転価格税制」コラムをアップデートさせていただきます。

もし、皆様の中に更に詳しくインドネシアの税制改正の内容を知りたい方や当コラムにて不明点がある方などは、お気軽にご質問を頂ければと思っています。

 

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