インドネシアの移転価格税制⑨ ~無形資産の整理~

2017 年 5 月 5 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。今回のテーマは移転価格において重要な「無形資産の整理」についてです。一般に無形資産というとBS(貸借対照表)に計上される特許権や商標権等が思い浮かびますが、移転価格税制における「無形資産の整理」は、例えBSに計上されていない場合等であっても国外関連取引において法人又は国外関連者が使用した無形資産については記載する必要があるとされています。つまり移転価格税制においては知的財産法等における知的財産に限らず、いわゆる”無体資産(ノウハウ、業務マニュアル、指最善モデル、顧客リスト、見積書など)”についても含まれるものと考えられるのです。これらの”無体資産”を含んだ無形資産が国外関連取引において使用された場合に、その無形資産の種類、内容、契約条件等を説明する書類を作成するために「無形資産の整理」を行います。

 

 また、自社の有する無形資産が所得の源泉となっているかどうかを検討するに当たり、例えば、同様の事業を営むが無形資産を有さない法人を把握できる場合には、その法人の利益率等の水準と自社の利益率等の水準を比較することにより、自社の無形資産の形成に係る活動、機能等を十分に分析する必要があるとされています。・・・・がそんなに都合のよい比較対象が簡単にいるはずもなく、自社の無形資産が所得の源泉となっているかの判断についてはある種の感覚的な判断が求められることもあります。

 この「無形資産の整理」において必要な情報は以下の通りです。

 【必要な情報】

①国外関連取引において使用した無形資産の種類並びにその内容

②契約内容(開始時期、金額)

③意思決定、役務提供、費用負担などを誰が、どこで、何を、どのように行ったのかなどの情報

つまり、契約及び行動の内容を基に無形資産の整理を行っていくことが一般的であり、例えば、自社の日本側の技術担当部長が毎月インドネシアに来て業務を行った場合などは、何を行ったのかなどの内容を把握することで無形資産の使用があったのかを確認していくこととなります。ここで重要な概念が「無形資産の使用」と「役務提供」の違いであり、「無形資産の使用=ロイヤルティ(使用料)」と「役務提供=役務提供の対価を請求」によってその請求の内容も変わってくることをしっかりと認識していなければなりません。特に役務提供契約を締結していた場合において、この契約がロイヤルティ認定されてしまうとインドネシアにおいて源泉税の追徴がなされるために注意してください(役務提供の対価は事業所得に該当し、源泉税なしで支払可能。ちなみにロイヤルティ認定されるのが一部であっても全額に対して源泉税課税がなされてしまいます)。

少しそれてしまったので移転価格の話に戻しますと、役務提供でも無形資産の使用でも、どちらにおいても移転価格税制の対象となり独立企業間価格(Arm’s Length Price)で取引がなされることになります。この場合において役務提供であれば総原価をその対価とすることが可能な場合が多いですが、無形資産の使用にあっては、料率の適正性を判断することは非常に難しく、基本的には取引単位営業利益法(TNMM)などにより比較することが主流となっています。

無形資産の整理とは、料率の適正性を判断することが非常に難しい無形資産の使用について客観的に判断をすることを目的として行われるものですので、内容をしっかりと把握できるように整理することが重要となります。

 

インドネシアの移転価格税制⑧ ~二重課税のリスク~

2017 年 4 月 28 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。今回のテーマは移転価格の二重課税のリスクについてです。昨年2016年12月30日にインドネシアで移転価格税制(PMK213)の改正がありました。文書の保存期限が4月30(2016年12月31日決算の会社)のために、未だ具体的な事例は発生していませんが、日本での過去の事例を基に移転価格税制による二重課税のリスクが各企業にどれくらいのインパクトを与えるかを確認してみようと思います。

 

移転価格による二重課税は、粗利率又は営業利益率という企業の根幹部分に対する更正であるためにその金額が多額になる傾向があります。例えば、海外子会社との取引が年間5億円として、税務当局から5%の所得移転が指摘された場合は2,500万円の所得が加算されます。日本において移転価格税制は最長6年(インドネシアは5年)さかのぼることができますので、加算される所得の合計は1億5千万円となります。この時の追徴税額は、延滞税や加算税を含めると7,000万円~8,000万円程度となり、中小企業がとても負担できる金額ではありません。

 

国税当局から公表されている移転価格での追徴課税の平均額は6,000万円程度ですので、日本においては関係会社間取引が5億円~10億円ぐらいの規模もターゲットとなっています。以前、国税OBの移転価格専門の税理士の先生と仕事をしていたときに、その先生から「最近は総売上高が50億円~100億円程度でも“移転価格調査”に入られている」ということを聞きました。少し前までは100億超の中堅企業以上に入っていたものが、(大きいところのローラーが終了してしまったため)その調査の規模を少しずつ小さくしています。特に50億円~100億円で国外関連者との取引が5億円~10億円ぐらいの企業は今まで移転価格調査の対象となっていませんでしたが、今後はメインのターゲットとして日本の税務当局も確認を始めることになります。

 

また、私が確認した話では三千万円程度の追徴を実際に受けてしまった会社(グループ売上規模150億円程度)が、もう二度と同じ思いをしないためにAPA(事前確認制度:事前に当局と適正価格を調整、利益率を数年間固定)を利用し、事前に当局と利益率の合意をしました。ただし、この会社は企業を取り巻く環境の変化をその利益率に反映させておらず、大きな価格変動・為替変動等によるあおりを受けて実態とかけ離れた過大な利益率によって更に数年間の追加税負担を余儀なくされてしまいました。取引額が膨大な大会社であればAPAも有用であると思いますが、中小企業にはAPAはそぐわないと個人的には感じています。

 

日本における移転価格調査は、売上規模でローラーをかけて、その次のフェーズとして関連会社取引の規模を確認する、その上で毎年の利益率の水準を確認して調査対象を決定しているように感じます。まずは売上規模でのローラーをかけて調査対象を探している姿勢から、「調査に入った際に少しでも大きな金額を追徴することを目的(又は、影響の大きな大会社ほど適正に管理されているかを確認する必要があるため)」としているのでしょう。

 

これが例えば中国ですと、まず赤字企業に対してローラーをかけ、その次のフェーズで低利益率の会社を確認する(もちろんこの範囲の中で関係会社間取引額が大きいところに目星を付ける)としています。つまり中国では「調査に入った際には必ず追徴課税を取ることが目的」なのでしょう。※赤字企業は以前のコラムでも書きましたが、税務当局側からは指摘しやすいのです。

 

インドネシアにおいても、おそらく中国方式で「調査に入った際には必ず追徴課税を取ることを目的」としてくるでしょう。そもそも移転価格税制の価格の評価はかなり難しいものであり、利益が出ている状況では利益移転と正常なビジネスの範囲内という線引きが簡単にはできません。赤字であれば、それ自体が正常なビジネスではないために関係会社間の取引価格がおかしいと指摘しやすいのです。インドネシアにおける移転価格税制は整備されたばかりであり、税務当局も(知識がないため)いきなり真正面から戦ってくるとは考えられず、取れるところから確実に取るという方法が採られるものと考えています。

 

ただでさえ金額が高額になりやすい移転価格税制ですが、インドネシアにおいて移転価格文書を保存しなかった場合には申告書類の不備とされ追徴税額の100%の課徴金が科されるリスクがあります。つまり保存がなければ税務当局に勝手に利益率を決められて課税され(文書保存がないため反証不可)、かつ、その追徴税額の100%を課徴金として追加で科される、つまり200%の追加負担を求められる可能性があるために注意が必要です。

 

事前に自社の二重課税のリスク範囲・金額をしっかりと認識し、文書化を進めてもらえればと思います。なお、弊社では移転価格簡易リスク診断も業務として行っておりますので、ご興味があれば是非お気軽にご連絡ください。

 

インドネシアの移転価格税制⑦ ~価格算定方法~

2017 年 4 月 21 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。今回のテーマは移転価格の価格算定方法についてです。独立企業間価格(移転価格税制では、関係会社取引においても独立した第三者取引の価格と同水準の価格であることが求められ、その価格を独立企業間価格という。)の算定に当たっては、独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法、取引単位営業利益率法、利益分割法の5種類の方法より一番実態に則している方法を選定します(ベストメソッド方式)。それでは独立企業間価格の算定方法を一つずつ確認してみましょう。

 

【独立価格比準法】

独立価格比準法とは、特殊関係にない売手と買手が、国外関連取引に係る棚卸資産と同種の棚卸資産を当該国外関連取引と同様の状況の下で売買した取引額をもって国外関連取引の対価の額とする方法をいいます。関係会社取引における次の条件を満たす内部コンパラブル(第三者との間で行われる類似の取引)がある場合には、独立価格比準法の採用を検討します。

・社内の製品区分(型番)は異なるが、性状、構造、機能等の面で同様の製品である場合

・関係会社取引と第三者取引において機能面での差がない場合

・取引規模もおおむね同様であり、両取引の契約条件(引渡条件、決済条件、製品保証、返品条件等)も同様の場合など

 

【原価基準法】

原価基準法とは、国外関連取引に係る売手の棚卸資産の購入、製造その他の行為により取得した原価の額に通常の利潤の額を加算して計算した金額をもってその国外関連取引の対価の額とする方法をいいます。関係会社取引における次の条件を満たす内部コンパラブル(第三者との間で行われる類似の取引)がある場合には、原価基準法を採用を検討します。

・同種の製品ではないが、性状、構造、機能等の面で類似する製品である場合

・関係会社取引と第三者取引において機能面で類似し、独自性のある活動は見られない場合

・両取引の契約条件(引渡条件、決済条件、製品保証、返品条件等)はおおむね同様である場合など

 

【再販売価格基準法】

再販売価格基準法とは、国外関連取引に係る買手の棚卸資産の販売その他の行為による販売価格から通常の利潤の額を控除して計算した金額をもってその国外関連取引の対価の額とする方法をいいます。よって、製造業者や加工業者には向かない方法となります。関係会社取引における次の条件を満たす内部コンパラブル(第三者との間で行われる類似の取引)がある場合には、再販売価格基準法の採用を検討します。

・買手が独自性のある広告宣伝・販売促進活動は行っていない場合

・競合商品であり、同種の商品ではないが、性状、構造、機能等の面で類似している場合

・売上規模や販売機能(広告宣伝、販売促進、アフターサービス、包装、配達等)がおおむね同様である場合など

 

なお、これらの3つの方法は「基本三法」と呼ばれ客観性の高い方法と考えられていますが、内部コンパラブルがない場合には比較可能な取引の抽出が難しい場合が多く、次のTNMMが実務上採用されることが多い傾向にあります。その場合には、「独立価格比準法、再販売価格基準法及び原価基準法については、比較可能な取引を把握できなかったということから適用できない」というような文言をドキュメントに記載し、TNMMがベストメソッドであることを記載します(その他の方法の否定によりベストメソッドを抽出することが一般的)。

 

【取引単位営業利益法(TNMM:Transactional Net Margin Method)】

原価基準法及び再販売価格基準法が類似企業の売上総利益率をベースに価格算定を行うのに対し、TNMMは類似企業の営業利益率をベースに価格算定を行う方法となります。検証対象者が製造業者か販売業者か(又は買手か売手か)に応じ、類似企業の総費用営業利益率又は売上高営業利益率等を用いて検証対象者が獲得すべき営業利益を算定し、そこから取引価格を逆算する方法です。また、この方法の採用は、より簡易な機能を担っている会社を検証対象とすることが多く、それゆえに比較可能な取引の抽出もその他の方法に比べ簡単である場合が多く、実務上採用されやすい方法となります。

 

【利益分割法】

利益分割法は、関連者間取引の合算利益に対して貢献した貢献度に基づき、各自の利益額を算定する方法であるために各関連企業が関連者取引から得る総利益(見積利益)を算定してから計算します。利益分割法には、比較利益分割法、寄与度利益分割法、残余財産分割法があります。ただし、利益分割法は、比較対象取引に係る所得配分割合や対象となる国外関連取引に係る所得発生要因を推測することが難しく、実務上採用されづらい方法となります。

 

ポイントは内部コンパラブル(第三者との間で行われる類似取引)があるか否かと販管費に該当する関連者間取引があるか(営業利益での比較=TNMM)などになります。ただし、ローカルのコンサル会社などにレポート作成を依頼した場合には、どんな場合でもTNMMを利用することが散見されますが、しっかりと他の方法の検証をしなければ移転価格調査で問題となってしまうこともありますので注意していただければと思います。

さて今回のコラムはいかがでしたでしょうか。次回は、移転価格の二重課税のリスクについて、日本の実態を基にインドネシアにおける追徴額がどれくらいになるかを考えてみようと思っています。それでは次回コラムもよろしくお願いいたします。

 

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