インドネシアの移転価格税制⑰ ~移転価格ポリシーは何故必要なのか~

2017 年 6 月 29 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。前回、前々回と“PMK213にて求められるマスターファイルに含めるべき移転価格ポリシー”に関してお話しましたが、移転価格ポリシーとは本来どのようなものであるかの概要の説明を行っていませんでした。そのために今日は、移転価格ポリシーを作成する大元の理由をお話できればと思っております。

移転価格ポリシーとは、多国籍企業が行う国外関連取引(親会社子会社の取引や兄弟会社間の取引)が独立企業原則に基づいて行われるよう多国籍企業グループのすべての取引について、取引の類型毎に移転価格設定方針及び運用のルールを定めたものをいいます。

BEPS ACTION PLANにおいては、三層構造の移転価格ドキュメンテーション(マスターファイル:MF、ローカルファイル:LF、国別報告書:CBCR)の作成を求めていますが、移転価格ポリシーについてはマスターファイルの項目の一部として含められているだけです。

本来であれば移転価格ポリシーに関しては、機能・リスク・資産の特定及び整理、各国の利益水準の整合性の確認及び再配置、利益水準・価格の設定を行う基礎となるものです。これらの基礎となる移転価格ポリシーを作成するためには、ただ単にMF、LFを作成するだけでは足りず、下記のフローによってドキュメンテーションが行われることとなります。

【移転価格ポリシー作成を含めたドキュメンテーションフロー】

①グループ各社で作成している移転価格文書の状況(構成及び内容)確認

②作成済みの各文書間の整合性の確認

③重要な機能又はリスクがある項目への対応策の検討、実施

④ユニラテラルAPAやルーリングの他国への影響の確認

⑤確認された移転価格リスクも踏まえたポリシーの策定

⑥事業方針を反映した利益配分の検証

⑦移転価格ポリシーのグループ内での周知と実務運用(利益水準・価格の設定)

⑧移転価格ポリシーを基にしたMF、LF、CBCRの作成

⑨期中検証(検証対象の利益水準を確認し、価格調整の要否の検討)

⑩期末検証(検証対象の利益水準を確認し、期末一括価格調整の要否の検討及び翌年度の価格設定)

⑪移転価格ポリシー、MF、LF、CBCRの更新

 

移転価格ポリシーはMF、LFの作成の基礎となる書類であり、グループ全体に潜んでいる移転価格リスクを発見・解決(対処)するための作成する書類なのです。例えば移転価格ポリシーにおいては、LFでは見落とされがちなリスクを発見するために役立ちます。LFとは各国の利益率が正しいかを検証するために、各国の移転価格税制に則って作成されるものですが、そこには該当する一国の情報しか含まれていません。

移転価格ポリシーを作成すれば、例えば、インドネシアでの利益率は3%であり、その他各国の利益率が約15%であった場合において、全世界での機能の遂行状況及びリスクの負担状況を確認し、3%の利益率で移転価格リスクがないかの確認ができるのです。移転価格リスクがあった場合には、移転価格ポリシーを基に利益の再配分を行い3%の利益率を調整します。

移転価格ポリシーは、特にLFとの親和性は高く、宛らグループの全ての子会社のLFを作成しているようなものです。移転価格ポリシー作成前に各国において、既に作成しているLFがあるときは当該LFの内容を紐解き、移転価格ポリシーと比較検討し、問題がないかを確認します。

移転価格ポリシーを作成する最初の段階で、取引の類型化を行います。取引の類型化は担当者へのヒアリングによって行うのですが、この際に現行のLFの内容、価格の設定方針や運用ルール、機能・リスク・資産の特定及び整理なども併せて行います。取引の類型には、棚卸資産取引、ロイヤルティ取引、コストシェアリング取引、業務委託取引、マネジメントサービス、無形資産取引、利息取引などがあり、これら1つ1つにポリシー(移転価格設定方針及び運用ルール)を設定します。

また、移転価格ポリシー作成時においてはLFの作成の際に行う経済分析も行います。上記で整理した取引類型毎に、移転価格算定方法の選定、比較対象企業の選定、独立企業間レンジの設定を行い、運用時の不都合がないかの適正性を検証します。移転価格ポリシーの網羅性・適正性を担保するために国ごとではなく、取引毎に分類するのです。そのために国は違えど同様の取引を行っている場合には、基本的には同じ移転価格算定方法が適用されることになります。

移転価格ポリシーの目的は移転価格設定方針及び運用ルールの記載なので、細かな料率や機能リスク分析などの記載ではなく、取引類型毎に分類された移転価格設定方針及び運用ルールを高いレベルで記載されることが求められます(ポリシーは法定されていないので、どのようなものを作成するかは会社によって異なりますが・・・)。

移転価格設定方針及び運用ルールを高いレベルに保つため、移転価格ポリシーの作成時においてもLFの作成の際に行う機能・リスク・資産の分析や経済分析が行われるのですが、そのために多くの場合、移転価格ポリシーを作成する際には各国のローカルファイルの作成も併せて行います。

このように移転価格ポリシーの作成は本来は非常に大変です(お金もかかります)。前回、前々回で記載したポリシーの内容は、中小企業(インドネシアにおいては中小企業についても移転価格税制の対象となってしまう)が、マスターファイルにどのレベルの移転価格ポリシーを含めるのかを検討したものです。会社の状況に合わせた移転価格ポリシーの作成が重要です。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。今後、近いうちにタイにおいても移転価格税制の改正があると予想されています。移転価格税制も含めたタイの会計税務・人事労務などの最新情報については下記のブログからご確認ください。

「5分で分かるタイビジネス」:http://blog.livedoor.jp/bnthailand/

インドネシアの移転価格税制⑯ ~役務提供に係る移転価格ポリシー~

2017 年 6 月 22 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。前回のコラムではマスターファイルの核となる“移転価格ポリシー”についてお話しいたしました。今回は前回お話しした移転価格ポリシーのうち、“役務提供に係る移転価格ポリシー”について更に落し込んで考えてみようと思います。

前回はマスターファイルに実際に記載される移転価格ポリシー(役務提供)の具体例を以下のとおり記載しています(http://futureworks-inc.jp/blog/589)。

【移転価格ポリシー(役務提供)具体例①】

契約内容:業務委託契約

役務提供者:日本親会社

役務受益者:インドネシア子会社、タイ子会社、メキシコ子会社、ブラジル子会社

役務内容:役務提供者は、役務受益者が販売活動及び一般管理活動を適正に行うための各種サポート及び、必要な知識を得るための役務受益者社員に対する教育・指導を行う。

対価の額の設定方針:役務提供者から派遣した出張者への日当、交通費、宿泊費等の関連費用については、実費額を役務受益者が支払う。

もちろんこちらのポリシーは実際に作成したマスターファイルから少し簡易化してもってきているものです。実務上はこのポリシーについてどこまで記載するか(どのような考え方によって各国の移転価格税制に対応するか)の検討が必要で、例えば次の具体例についても移転価格ポリシー(役務提供)に該当します。

【移転価格ポリシー(役務提供)具体例②】

契約内容:業務委託契約

役務提供者:ベトナム子会社

役務受益者:日本親会社

役務内容:役務受益者が顧客に対して行うシステム開発のうち、一部を役務提供者に委託する。役務提供者は役務受益者に対してシステム開発サービスを提供し、役務受益者より対価を収受する。

取引フロー:取引フロー図を挿入

適用する移転価格算定方法:TNMM(取引単位営業利益法)

【価格設定方法の内容】

  • 役務提供者が使用する利益水準は総費用営業利益率とする。
  • 役務提供者はシステム開発会社として限定的な機能、リスクを有している。
  • 役務受益者は当システム開発に関する無形資産を保有している。
  • 当国外関連取引における超過収益及び損失は役務受益者が負担する。
  • 役務受益者は両者(役務受益者及び役務提供者)が保有する機能、リスク、資産に応じ、適切な業務委託料を設定する。

移転価格の検証方法:総費用営業利益率が、ローカルファイルの独立企業間利益率レンジに収まる場合には、当取引価格はPMK213及びその他移転価格関連法令に基づき設定されていると判断できる。

もちろん移転価格ポリシーが簡易になりすぎて、マスターファイルとローカルファイルが一貫性のないものになってしまっては意味がありません。より説得力のある移転価格ドキュメントを作成するためには取引の類型毎に具体例②のポリシーを採用すべきであるともちろん思います。資金力がある上場企業などでは具体例②のようなポリシーを取引の類型毎に網羅的に作成し、ポリシーを基にマスターファイル及び各国のローカルファイルを作成するべきでしょう。

ただし、インドネシアにおいてマスターファイル及びローカルファイルの保存が求められている企業には中小企業も多く含まれます。このような中小企業が移転価格ドキュメントを作成するためにいくらお金をかけることができるのかも同時に考えなければなりません。各国に展開している子会社との取引に関しその取引類型毎にポリシーを作成し、マスターファイルを作成し、各国のローカルファイルの作成を行う場合には1,000万円以上のお金がかかってしまうこともざらにあります(移転価格税制の追徴課税額はそれ以上に高額になるリスクがあります)。

作成義務がある会社が作成しない場合には、当局による推計課税がなされるリスク及び追徴税額の100%以上の課徴金が課されるリスク、期間に応じた月利2%の利息が課されるリスクがあり、その金額的なリスクは膨大です。そのため会社の規模に合わせて移転価格ドキュメントの内容が変わってくることはしょうがないことだと感じています(内容と金額のバランス)。

※大切なことは、移転価格課税リスクが高い企業が今後どのようにリスクを低減していくかのアプローチをどこまでコンサルが一緒に考えてくれるかだと思います。特に中小企業は社長が自由に値付けをしていることも多く、作成初年度は移転価格リスクが高いことも多いので。

さて、先週インドネシアにおいて移転価格セミナーを開催しましたが、タイにおいても移転価格セミナーを開催します。タイはBEPSプロジェクトに則った移転価格税制の改正が未だなされていませんが、来年度にでも改正があると言われています。そのためにこのセミナーにおいては、タイの移転価格税制がどのように変わるか、改正後どのようなものを作成しなければならないか、など実務に沿ったものをお話できればと考えています。現在若干数の席が空いており、かつ、ご興味がある方が多ければ少し席を増やすことも可能ですので、お気軽にご連絡ください。

【セミナー情報】
http://blog.livedoor.jp/bnthailand/archives/16251818.html

【お申し込み先】

info@bridgenote.asia

※片瀬宛でお問合せ下さい。

インドネシアの移転価格税制⑮ ~移転価格ポリシー~

2017 年 6 月 16 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。今日はマスターファイルの核となる“移転価格ポリシー”についてお話いたします。まずはインドネシアPMK213におけるマスターファイルに記載すべき項目から確認してみましょう。

【マスターファイル記載事項】

こちらの資料の中の赤字の部分にご注目ください。その他の部分に関しては多国籍企業グループの概況情報となるためにイメージもつきやすいのですが、この移転価格ポリシーで多くの企業が困ることになります。移転価格ポリシーといわれても何を記載したら良いのか全くイメージが湧きません。

イメージが湧かないものは、得てしてとても難しいものと認識してしまいがちなのですが、、、移転価格ポリシーを作成すること自体は特に難しいものではありません。各国と整合を取りながら税務リスクを低減するポリシーを作成することが難しいのです。

例えば、役務提供に係る移転価格ポリシーを次に記載してみます。

移転価格ポリシー具体例

契約内容:業務委託契約

役務提供者:日本親会社

役務受益者:インドネシア子会社、タイ子会社、メキシコ子会社、ブラジル子会社

役務内容:役務提供者は、役務受益者が販売活動及び一般管理活動を適正に行うための各種サポート及び、必要な知識を得るための役務受益者社員に対する教育・指導を行う。

ポリシー:役務提供者から派遣した出張者への日当、交通費、宿泊費等の関連費用については、実費額を役務受益者が支払う。

この例は業務委託契約という関連会社間の役務提供契約に関して、各子会社はいくらのFeeを支払わなければならないかを表すものです(ポリシー = 対価設定方針)。この場合は実費額の支払いとなっていますね。これが移転価格ポリシーです。移転価格ポリシーとは関連会社間の各種契約(現在・未来含む)をどのような考え方を基に締結しているか、その考え方そのものとなります。

大切なことはポリシー事態を設定することではなく、対価の設定を“実費額”として各国で問題にならないかどうかということです。各国の税務当局はマスターファイルを否認するのではなく、マスターファイルの移転価格ポリシーを基に作成した各国のローカルファイルを否認するのです。

例えば、インドネシアやタイでは、赤字企業がこのようなマネジメントフィーを支払うことは否認されるリスクがあります。各国には各国のルールがあり、そのルールとは法律で求められていることや慣行で行われていること、それらを網羅的に検討して移転価格ポリシーを作成しなければなりません。

さて15回目の今回はマスターファイルに記載される移転価格ポリシーについてお伝えいたしました。移転価格ポリシーを作り込み(ロイヤルティやマネジメントフィーの)料率まで記載することも考えられますが、あくまでもポリシーは考え方の提示であるために作り込みすぎない方が(ある程度の振れ幅をもっていた方が)個人的には良いかなと思っています。

また、インドネシアに続いてタイにおいても移転価格セミナーを開催します。タイはBEPSプロジェクトに則った移転価格税制の改正が未だなされていませんが、来年度にでも改正があると言われています。そのためにこのセミナーにおいては、タイの移転価格税制がどのように変わるか、改正後どのようなものを作成しなければならないか、など実務に沿ったものをお話できればと考えています。現在若干数の席が空いており、かつ、ご興味がある方が多ければ少し席を増やすことも可能ですので、お気軽にご連絡ください。

【セミナー情報】
http://blog.livedoor.jp/bnthailand/archives/16251818.html

【お申し込み先】

info@bridgenote.asia

※片瀬宛でお問合せ下さい。

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