インドネシアの移転価格税制㉖ ~税務調査に係る調査担当官の権限~

2017 年 9 月 17 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。今回のコラムは「税務調査に係る調査担当官の権限」についてお話できればと思っています。移転価格の税務調査の現状は移転価格調査というよりも、今までの税務調査の延長でその中で移転価格文書を提出するような形式になっているようです。移転価格文書を作成していない会社への税務調査では引き続き、ロイヤルティやマネジメントフィー、支払利息が多く指摘されています(親会社に対する支払いは問題になることが非常に多いです)。

さて、今日のコラムでは、インドネシアの税務調査では「なぜ、一方的な追徴がなされるのでしょうか?」、「なぜ、アンダーテーブルを求められることがあるのでしょうか?」、「なぜ、追徴税額の根拠が示されないのでしょうか?」、とこのあたりの解説ができればと思っています。

 

これは、インドネシアの税務調査担当官に付与されている権限及び立証責任に問題があります。

【税務調査担当官に付与されている権限】

  • 税務調査通知書(SPPP)の発行権限
  • 調査査定書(SPHP)の発行権限
  • 更正通知書(SKP)または徴税通知書(STP)の発行権限
  • 納税額等を決定する権限
  • 書類の押収権限(1月以内の提出)
  • 資料作成を求める権限
  • インドネシア語に翻訳させる権限
  • 市場価格の算定権限

【立証責任】

  • 納税者側に立証責任

インドネシアにおける税務調査においては税務調査担当官が過大な権限を保有しているのです。つまり、税務調査担当官は、「税務調査を始めることができ、市場価格を自分で決めて納税額を決定することができ、調査の説明資料(SPHP:調査査定書)を自身の判断で作成することができ、自分の言っていることは正しいので(納税者側で不服があるなら)裁判を起こして立証してくださいというスタンス」なのです。そりゃあ、税額ふっかけてアンダーテーブル要求してきますよ。一個人にこんな権限付与していれば・・・・。

 

ちなみに日本の税務調査の調査担当官の権限と立証責任は次の通りです。

【日本の税務調査担当官に付与されている権限】

  • 質問検査権

【立証責任】

  • 基本的には課税庁側に立証責任(明確に定められてはいませんが、過去の判例でそのように考えられています)。

ここにいう「質問検査権」とは、国税通則法において定められており「質問」、「検査」、「提示」、「提出」、「留置」が含まれています。つまり日本の税務調査担当官は“事実関係の洗い出し”が仕事であり、その職務内容に“判断(意思決定)”は含まれていません。判断(意思決定)するのはあくまでも税務署長です。なので、日本の税法の多くには、「税務署長は、○○することができる」というような、税務署長が主体となった書き方がなされているのです。

インドネシアでロイヤルティやマネジメントフィー、利息やその他の役務提供費用がことごとく否認されているのはこのような背景があるのです。あまりにも理不尽な税務調査ですが、インドネシアではこれがスタンダードなので、その上でどのように対応するかを日系企業サイドも考えなければなりません。

では実際にはどのように対応するか?

良く言われているのが(コンサルが良く言うのは)「ロイヤルティは3%まで、マネジメントフィーは払わない方がよい、利息はUSDが2%~3%、IDRが5%まで、役務提供費用は実費精算」などでしょうか。皆さんも一度は聞いたことがあるかと思います。ただ、それに合わせてもインドネシアの担当官は「ロイヤルティ3%ダメ、1.5%にして」、「USD利率3%ダメ、1.5%にして」と根拠もなし(良くわからない根拠と共に)にいってきます。正直いうと親会社に対して“何かしらの支払い”を行っていれば何だかんだ理由を付けて指摘されているように思います。※もはやパーセンテージの問題ではありません。どこが指摘しやすいかです。

方や日本の税務調査はどうでしょうか。「ロイヤルティの収受は必要、利益水準から考えて3%は収受して」、「利息はUSDスワップレート(10年)+スプレッドで3%程度が適正」、「親会社の保証があるなら保証料を収受して」など、根拠を示して指摘が行われます。その時によく日本の親会社が口にするのが・・・・

「インドネシアでロイヤルティの支払を否認されたから収受することができない」

これは日本の税務当局は全く関係ない話で、「インドネシアでおかしな指摘を受けたならインドネシアで裁判を行ってください」となります。裁判の結果なら耳を貸しますよと。もちろん日本の親会社はそんなこと言われてもどうすることもできないので・・・・

「じゃあ、どうしろってんですか?」

日本の税務当局は冷静に、「ロイヤルティで収受できないなら、違う項目でも良いので、とにかく収受してください。異論は認めません。」となります。つまり、形式は問わずに、実態を伴わせる必要があります。インドネシアでは、「ロイヤルティはダメ」とあくまでも形式で指摘してきます。なのでインドネシアで一番指摘されづらい項目で親会社への還流を行うことを検討すべきです。

一番指摘されづらい項目は「棚卸取引(材料購入や製品販売の取引)」であることは間違いありません。もちろん棚卸取引においても十分な利益が計上できていなければ、価格の適正性を指摘されることはありますが、ロイヤルティやマネジメントフィーのように「十分な利益が出ていたとしても指摘される項目(ここ重要!!)」ではありません。

移転価格ドキュメントの価格設定方法がTNMM(内部コンパラがないの)であれば、上記のロイヤルティやマネジメントフィーについては棚卸資産取引価格に含めた上で、利益率が適正か検証を行えばよいのです。日本親会社においては税務当局説明用に棚卸資産取引価格の内訳資料を用意しておけば問題ありません。

移転価格ドキュメントは法律に従ってただ作るものではありません。今後の追加課税リスクをどのように減らしていくかを検討するために作成するものでなければなりません。確かにインドネシア特有の指摘項目などがあり、その根拠などもあまり示してくれない国ですが、その中でも指摘されづらい項目がありますので、悪い部分だけをみて対処療法を行うのではなく、良い部分において仕組化を考えることも必要です。

海外子会社からの利益の還流方法については次のブログで過去に書いていますのでご参考にどうぞ!

http://blog.livedoor.jp/bnthailand/archives/17831212.html

※簡単に言うと、「配当」、「利息」、「取引(ロイヤルティ、役務提供、棚卸取引)」ぐらいしか、利益の還流方法はありません。

インドネシアの移転価格税制㉕ ~機能・リスク分析の重要性~

2017 年 9 月 8 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。今回のコラムは「機能・リスク分析(http://blog.livedoor.jp/bnthailand/archives/16689366.html)の重要性」についてお話できればと思っています。インドネシアのローカルファイルの作成にあたり、その中核をなす「機能・リスク分析」について現地ではあまり積極的な検証はなされていないように感じます。理由はいくつかあるのですが、、、まずは「機能とリスク」のイメージ付けから(特に検証が行われていない「利益配分の妥当性」についてのイメージを主にします)。

Q:皆さんが株式投資を行うにあたって「一部上場企業」と「新興市場上場企業」にどちらに投資した方が得られるリターンが大きくなるでしょうか。

もちろん一概には言えませんが、もし急激な上昇(一発逆転)を考えるのであれば「新興市場上場企業」への投資を考えるのではないかと思います。会社が潰れてしまう可能性などの“リスク”を多く負担した方が得られるリターンが大きくなります。移転価格税制における「機能とリスク」は投資における“レバレッジ”と同じようなイメージを持っていただければ分かりやすいかと思います。

さらに詳しく、機能・リスク(資産)分析の目的は、主に次の3つに集約されます。
①移転価格算定方法の選定
②比較対象企業の選定
③関連当事者間の利益配分の妥当性
※上記の投資とリターンの関係は③の目的

インドネシアにおいて機能・リスク(資産)分析の検証が積極的になされていない理由は、「経常的にTNMM(取引単位営業利益法)が採用されている」、「データベースに登録されている比較対象企業が少ない」、「利益配分が正常ではない」などの理由が考えられます。

【経常的にTNMM(取引単位営業利益法)が採用されている】
本来TNMMは機能・リスク分析の結果として採用されるものですが、インドネシアにおいてはTNMMありきで考えられています。“内部コンパラブルが存在しない”、“単純な機能・リスクを負担している”、“その他の方法で比較できるほど比較対象企業が充実していない”、これらの理由によってTNMMが採用されていますが、十分な検証がなされているとは言えない状況にあります。

【データベースに登録されている比較対象企業が少ない】
TNMMはその他の方法(http://blog.livedoor.jp/bnthailand/archives/16689300.html)と違い採用に大きく幅を持たせています。具体的には「他の価格算出方法のような厳密な比較可能性が要求されず、製品や契約条件の違いによる収益性指標の変動が相対的に少ない」という利点があります。つまりその他の方法は厳密な比較可能性が要求されるために、データベースに登録されている企業数がそもそも少ないインドネシアにおいては、TNMM以外の採用の選択肢がないことが多いのです。

【利益配分が正常ではない】
IDRは不安定な通貨であるという認識が日系企業の中に依然として根強く残っています。IDRでキャッシュを残しておきたくない、日本本社に還流したいという思惑を持っている経営者が多い現状があります。そのために一連のサプライチェーンを確認すると日本本社に多くの利益を付けていて、インドネシア子会社は低利益(又は赤字)ということが起こってしまっています(インドネシア子会社において、“製造機能”、“販売機能”、“管理機能”、“従業員数”など日本本社に比して十分な機能・リスクを負担しているにも拘わらずです)。

現状を鑑みると、インドネシア当局からの指摘は移転価格の指摘というよりも、今までの税務調査の指摘の延長線上に位置づいています。「利息水準が高い」、「ロイヤルティを払いすぎ」、「赤字なのにマネジメントフィー払っちゃダメ」とかそのような指摘です。今後はこれらの指摘に移転価格ドキュメント・ポリシーを材料として反証を行っていくことになります。インドネシア当局に移転価格調査のノウハウが付いてくると、必ず日本本社との利益配分を確認されます。そもそもインドネシアでは比較対象企業がかなり少ないために、いわゆる基本三法(独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法)は比較可能性が担保できない可能性が高く、税務当局も基本三法による指摘が難しいため(内部コンパラブルがある場合には別)、利益配分を主な材料として指摘してくることが予想されます。
国際的に比較対象企業が存在しない場合には、「利益分割法」を利用します。比較対象企業がいないという結論は移転価格ドキュメントとしてのレベルが低いと言わざるを得ないのでご注意ください(ローカル会計事務所が作成したもので散見されます)。

実際に確認するとインドネシアで作成されているローカルファイルの多くは、この機能・リスク分析と移転価格ドキュメントの結論が十分に結びついているものが少ないです。もちろん①移転価格算定方法の選定、②比較対象企業の選定、③関連当事者間の利益配分の妥当性、これら3つの目的を検証した上で“あえて”記載を少なくしているのであれば問題ありませんが、そうでなければ将来的に問題となってしまう可能性もあります。そうならないためにも日本人責任者は「利益配分が目に見えて異常」だと考えられる場合には、自主的に価格を正常に戻すよう再度検証することが必要です(日本本社との利益配分を正常にすることは、インドネシアの利益率が上昇することですので、TNMM上においても問題となることはありません)。

移転価格ドキュメントをローカル会計事務所で作成される日系企業が増えてきていますが、マスターファイルの作成は他国の関連会社取引の内容も含めるため親会社との綿密な打ち合わせが必要です。そのために日本語での対応ができる方が、実際に作成を始めてからはスムーズにいきます。また、マスターファイルとローカルの齟齬があると致命的な弱点となってしまいますので、その点ご注意ください。

インドネシアの移転価格税制㉔ ~とても危険な税金の取り合い~

2017 年 9 月 1 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。今回の移転価格税制のコラムは、前回のコラムに引き続き「とても危険な税金の取り合い」について記載します。最近多くのインドネシアのローカルファイル・マスターファイルを作成していますが、多くの日系企業が抱える問題が少しずつ明らかになってきました。

今日はその中でも、「親子ローン」に係る利息の取り合い(インドネシアと日本)について書いてみようと思います。2016年末にインドネシアの移転価格税制が改正となってから、多くの会計コンサルが「インドネシア国内においてのみ問題のない移転価格ドキュメント(ローカルファイル)」を作成しています。つまり、現在インドネシアで作成されているローカルファイルの多くは、基本的にインドネシアと日本の税金の取り合いについて、インドネシア側で問題がないことをアピールするためにしか利用できずに、インドネシアと日本の両面から検証することができません。5つある独立企業間価格の算定方法のうち、特にTNMM(取引単位営業利益法)がインドネシアにおいては広く利用されていますが、この算定方法はインドネシア片側の利益率の検証であるために、日本において価格が適正であるかの検証ができるものではありません。

移転価格税制は2か国間問題なのに、移転価格ドキュメントでは片側の検証しか行わないために問題となることが多くあります。その1つの事例として、平成18年10月26日付の親子ローンの利息に関する判例(タイ子会社に係る日本の東京地裁の判例)がありましたので、こちらを基にどのようなリスクがあるかを検証してみようと思います。

【東京地裁H18.10.26】
<前提>
A社は自動車部品等の設計、製造、販売を行っている日本法人であり、平成9年(ちょうどアジア通貨危機のころ)にタイにa社を設立し、平成9年1月~翌年11月までの間に総額約1億3,000万バーツ(日本円で約4億円)の貸付けを行いました。貸付け期間は10年であり、利率は2.5%~3%/年に設定していました。また、その他の借入を行っている事実はありません。

<論点>
この10年間の貸付利率が適正か?否か?が移転価格の論点です。移転価格税制は基本的に何かと比較してその金額が正しいかを証明するのですが、利息取引において比較対象となるものは何でしょうか。

<検証>
以前のコラム(http://blog.livedoor.jp/bnthailand/archives/2017-03-27.html)において、移転価格税制上、利息の検証は次のいずれかの方法により行うと記載していますが、どの方法に準じて行われるべきか考えてみます。

●利息の独立企業間価格の算定●
①実際の取引金利:原則的な方法
②市場金利:借手の銀行調達利率による方法
③市場金利:貸手の銀行調達利率による方法
④市場金利:国債等の運用利率による方法
※優先順位は番号順

これらのいずれかの方法によって金利の適正性を確認します。
当判例は比較対象取引が存在しない場合に、「準ずる方法(想定による比較可能性を図る方法)」が有用と認められた重要な判定です(a社が銀行等から借入を行っている事実はなく、また、当時タイにおいては銀行から長期の借入はできなかったため比較対象取引がありませんでした。)

上記の判例で用いられた方法は、②の「市場金利:借り手の銀行調達利率による方法」、具体的にはスワップレート+スプレッドでの評価です。ロンドン市場にてタイバーツを短期変動金利で調達し、スワップ取引で10年固定金利(9.5%~18.2%/年)に変更、実質的に長期固定金利で資金を調達したと同じ状況が設定されました。その結果、想定する借り手の銀行調達利率は10.5%~19.2%/年とされ、2.5%~3%/年で利息設定していたA社は日本側で多額の追徴課税とされてしまったという判例です。

この判例は、あくまでも一例ではありますが、移転価格文書の作成にあってはインドネシアのフォローだけを行い日本側のフォローがなされないことがあります。特に日本側ではローカルファイルの作成義務がなく(国外関連者との前年度棚卸取引金額が50億円未満(役務提供3億未満)の会社は日本側で作成義務がない)、ローカルファイルの作成を行わない企業においては、その傾向が顕著ですので、日本側のリスク検証もしっかりと行いましょう。

IDR(インドネシアルピア)ではスワップレートではなく国際レート(10年債)+スプレッドという形で評価を行うことも多くあります。多くの日系企業の金利設定は3%~5%/年程度で行っていますが、国際レート+スプレッドで評価した場合には、6%~8%/年ぐらいの評価になると思いますので、こちらにも乖離があるために日本側で問題にならないよう注意する必要があります。
また、「反対に」最近インドネシアにおいて実際にあった事例(税務調査)で、インドネシア国内においてIDR建ての借入では3%の利率でOKだったけれど、USD建てでの借入では3%では認められない(適正は1.5%と指摘)として、否認されてしまった事例も出てきています。まだ、この指摘がスタンダードになっているようには思いませんが、多くの日系企業の金利設定が3~5%である現状を鑑みると少し怖い気がしています。※USDのスワップレート(2%程度)+スプレッドで評価しても3%は超えると主張できる気がしますが、おそらく聞く耳などもってくれないのでしょう・・・。

この税金の取り合いは納税者からは到底納得できませんが、日本に合わせて利率設定をするとインドネシア側で指摘され、インドネシアに合わせて利率設定すると日本側で指摘されます。いずれにしても日系企業は(取引の性質を無視して、一律で対価を決定してしまう傾向にあるので)利息設定、ロイヤルティ設定、役務提供対価設定などで移転価格上の問題を多く抱えている企業が多いです。指摘リスクを洗い出して、その上で“今後”どのように契約内容を変えていくかの検討が非常に大切です。

※弊社では初回ミーティングを無料で行っております。移転価格ドキュメントの作成を検討されているお客様は積極的にご活用いただければ幸いです。

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