インドネシアの移転価格税制② ~行動13・マスターファイル~

2017 年 3 月 16 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。前回から執筆を開始した「インドネシアの移転価格税制」については、現在全世界的にルールが統一され始めている移転価格税制を皆様と共有することを主な目的としています。ただし、個人的には形式のルールだけではなく、国際税務を理解するにあたり一番のポイントとなるのが移転価格税制だと思っています。例えば、日本において税務調査で”国外関連者に対する寄附金”を指摘されることが昨今とても多くなっていますが、移転価格を理解していれば寄附金に該当しないように主張することなども可能です。そしてインドネシアに限らず移転価格の考え方は国を選びません。このコラムにて移転価格のルールだけではなく、国際税務の根本となる考え方も身に着けていただければ幸いです。

それでは、早速内容に入っていきましょう。前回のコラムにおいて、現在、BEPSプロジェクトの行動13においては、必要文書の3層構造による保存が求められている旨を記載しました。少し記載内容等を復習してみますと、

■行動13(三層構造によるドキュメンテーション)

【各ドキュメントの記載内容】

①マスターファイル: グローバル企業の事業概況を記載(ポリシー含む)

②ローカルファイル: 関連者間取引に関する情報を記載

③CbCレポート: 国別の所得配分、納税状況、経済活動の所在、主要な事業内容等を記載

このように、行動13によって「マスターファイル」、「ローカルファイル」、「CbCレポート」の保存が求められているのです。具体的には、マスターファイル・CbCレポートは“究極の親会社(連結の最上位の親会社)”が作成されるべきものとされており、日本ではどちらも1,000億以上の連結売上高を誇る企業にその作成保存義務があります。ローカルファイルにおいては関連会社間取引における価格が適正であることを証明するための資料であるために、各国において作成され、各国において保存さることになるのです。基本的なルールとしては、マスターファイル及び国別報告書については“究極の親会社が作成”し、ローカルファイルについては“対象となる各国の関連会社において作成”するというものになります。※皆様は日系企業だと思いますので、究極の親会社が日本親会社で国外関連者がインドネシア子会社という前提で話を展開させていただいております。

今回はその中からマスターファイルについて、BEPSプロジェクトの行動13について、求められている記載内容をお伝えしようと思っています。ただし、この行動13については強制力がある規定ではなく、あくまでも指針ですので具体的な記載内容は各国の国内法に委ねられています(マスターファイルの記載内容などにおいて、行動13には”次のものを記載すべき”という形であるべき論で語られていることが特徴です)。

それでは、マスターファイルの記載”すべき”内容を見てみましょう。

【マスターファイル】※以下MNEとは(Multinational Enterprise:多国籍企業をいう)

(1)組織のストラクチャー

・MNE の法的及び所有関係のストラクチャーと事業体の所在地を示した図

(2)MNEの事業説明

各MNEの主要事業分野に関して

・MNE の事業概要の書面説明(以下の内容を含む。)。

・営業収益の重要なドライバー。

・MNEグループの主要な5種類の製品及び役務提供のサプライチェーンを示す図、および、多国籍企業の総売上高の5%以上を占める製品及び役務提供の説明(チャート図等による説明可能)

・主要な製品及び役務提供のサプライチェーンを示す図。

・R&Dサービスを除く他の重要なグループ内役務提供取極めを示す図。

・主要な製品及び役務提供の主要な地理的マーケットの説明。

・書面による機能分析(グループ内企業の価値創造に対する主要な貢献を説明、つまり、果たしている主要機能、負担している重要なリスク及び使用している重要な資産)。

・対象年度における重要な事業再編取引、事業買収、事業売却の説明。

 

(3)MNEの無形資産

・無形資産の開発、所有、活用に関する MNE の包括的戦略の説明(主要な R&D 施設とR&D マネジメントの所在地を含む。)。

・MNE グループの重要な無形資産(グループ)及びそれらの所有事業体リスト。

・無形資産に関する重要な関連者間契約リスト(費用分担契約、主要な研究の役務提供契約、ライセンス契約を含む。)。

・R&D と無形資産に関するグループ内移転価格ポリシーの説明。

・対象年度中における無形資産の重要な持分の譲渡に関する説明(関係する事業体、所在地国及び対価を含む。)。

(4)MNEグループ内金融活動

・グループの資金調達方法の説明(非関連者との重要な資金調達取極めを含む。)。

・MNE グループ内で主要な金融機能を果たす企業の特定(当該企業の設立に係る法施行国(どの国の法律に基づき設立されたか)及び実質管理地国の情報を含む)。

・金融取極めにかかるグループ内の一般的な移転価格ポリシーの説明

(5)MNEの財務状態と納税状況

・対象年度の MNE の連結財務諸表

・MNE グループに適用されるユニ又はバイ/マルチ APA 及びアドバンスルーリングのリストと簡単な説明

・特定国への所得配分に関するその他の税務ルーリングのリストと簡単な説明

 

マスターファイルは簡単にいうと企業の概況書という性質を持っています。ポリシーを含む含まないという論点はありますが、その性質上、マスターファイルによって企業の経済活動が独立企業間価格(ALP)によって行われているという価格の証明にはなりません。価格(料率)を証明するドキュメントはローカルファイルであり、マスターファイルはローカルファイルによって算定される価格(料率)の根拠となる経済活動がどのように行われているかを税務当局へ説明するための資料という位置づけをすることができます。また、ローカルファイルにおいてもサプライチェーンを示す図や、企業の概況情報を記載しますので、前提部分には重複するものもあります。規定上は、ローカルファイルの情報とマスターファイルの情報に重複する部分がある場合にはマスターファイルを参照することが可能である旨も記載されています。

今回のPMK213(インドネシアの移転価格規定)の改正によって、日系企業はマスターファイル、ローカルファイル、CbCレポートを作成しなければならないとされていますが、優先順位をつけるのであれば、①ローカルファイル、②マスターファイル、③CbCレポートの順に整備していくことになるでしょう。もちろんマスターファイルに移転価格ポリシーをがっつり含めるのであれば、マスターファイルからローカルファイルに落し込んで考えるべきものでありますが、中小企業にもドキュメンテーションが求められている以上は、実務的にローカルファイルから作成し、それを基にインドネシア提出用のマスターファイルを作成するという本来とは反対の順番でドキュメントを整備することになるかと思います。

インドネシアにおいては、申告書にドキュメンテーションのサマリーを求められるために、この部分をどのように扱うかは現在不明確なままです。リスクを排除するためにはもちろん上記の「マスターファイル」、「ローカルファイル」、「CbCレポート」を作成するべきなので、自社の経済活動の大きさ、金額的なリスクなど鑑みて作成していただければと思います。

 

次回の内容は行動13の「ローカルファイル」の内容になります。どの国(インドネシアも例に漏れず)もマスターファイル、ローカルファイルの記載内容はこの行動13を基にして作成されていますので、まずは大元となる規程をご確認いただければと思います。

インドネシアの移転価格税制① ~OECDのBEPSプロジェクト~

2017 年 3 月 9 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。近年、全世界的に移転価格税制(関連会社間の利益の付け替えを規制する税制)が厳しくなるなか、ついにインドネシアにおいても移転価格税制の改正がありました。今後インドネシアにおいても移転価格のドキュメンテーションが必要となりますので、準備ができていない方はお早めにご連絡ください。

さて、インドネシアにおける移転価格税制の改正によって益々身近に考えなければならなくなってしまった移転価格税制を、今回からシリーズものとして執筆していこうと思います。「何故、移転価格税制の改正があったのか?」「BEPSプロジェクトとは一体何か?」「インドネシアの税制改正の具体的な内容はどのようなものか?」「移転価格のドキュメントはどのような方法によって作成するのか?」「移転価格税制の金額的なリスクはどれくらいになるのか?」このような皆様が気になるテーマを毎週お伝えしていきますので、是非、ご一読ください。

それでは早速内容に入っていきましょう。なぜ今回インドネシアにおいて「移転価格税制」が大幅に改正されたのか、まずはその背景を“OECDのBEPSプロジェクト”の説明と共にしていきます。

 

■OECDのBEPSプロジェクト

皆様は“ダブルアイリッシュ&ダッチサンドウィッチ”という節税スキームを聞いたことがありますか?

“ダブルアイリッシュ&ダッチサンドウィッチ”とは、アイルランドとオランダの(使用料課税がない)租税条約を利用し、アメリカで得た利益を無税でタックスヘイブン(法人税の税率が0%)である英国領バージン諸島に移転するというアメリカの大手IT企業が利用していた国際的にも有名な節税スキームです。OECDモデル条約の場合には、基本的に使用料課税(基本的に10%)はありますが、国同士の租税条約なのですべての国で同じ内容ということは今まではありませんでした。

BEPSプロジェクトについては、このような各国の国内法及び租税条約の違いを利用した節税スキームをアメリカの大手企業がこぞって取り入れたことから端を発します。

アメリカの大手企業によって利用されたこれら節税スキームはアメリカ国内において大きな問題とされてきました。ただし、アメリカ国内でいくら問題になろうともアイルランドとオランダの租税条約についてアメリカが口出すことは難しいために、アメリカは2012年6月にOECD(Organisation for Economic Cooperation and Development:経済協力開発機構)の租税委員会本会合にて、税源浸食と利益移転(通称:BEPS「Base erosion and profit sifting」)が法人税収を著しく喪失させているとの問題提起(合法であるために、国際課税原則を見直す必要性の提言)を行い、同年11月にBEPSプロジェクトが発足したのがすべてもの始まりです。

その後も、2013年6月にBEPSにおける行動計画が公表され、現在では15の行動計画における最終パッケージの公表までが完了(行動計画⇒第一次提言⇒討議草案公表⇒最終パッケージ公表)し、この最終パッケージを基に各国の国内法が再度整備されているという状況にまで話が進んでいます。

つまり「全世界統一のルールを作り、タックスヘイブン国を含む他国へのむやみな利益の付け替えを防止し、併せて課税所得の浸食を防止しましょう!」という目的の下に各国が統一のフレームワークを作り、それを基に国内法が整備されているのです。このフレームワークこそが“15の行動計画(Action Plan)”になります。

※国際会計基準(IFRS)の税務版とイメージしてもらえればと。現在は多くの国の会計基準がIFRSに準拠したものと変わっていると思いますが、国際税務基準もこのBEPSに準拠したものに変わることが既に起こり始めているのです。

このBEPSプロジェクトですが、2017年3月現在の参加する国・地域の数は94にも上ります。インドネシアは、この94の国・地域に含まれており、この度の改正はこのBEPSプロジェクトによるものであると分かります。2015年に行動計画の最終パッケージが公表され、その後このBEPSプロジェクトに参加する各国は粛々と国内法を整備してきました。例えば、この移転価格の文書化を規定した行動13の最終パッケージは2015年10月5日に公表されたのですが、中国ではこの最終パッケージに合わせた移転価格文書の改正草案を2015年9月17日(同年10月16日までパブリックコメント募集)に公表、日本においては2016年度の税制改正に合わせて公表(2015年12月16日)しています。

今回のインドネシアのNOMOR213/PMK.03/2016(通称:PMK213)の発行は、その内容を確認してみたところ、この中国や日本での改正内容に合わせた改正であることが見て取れます。

まずはPMK213を確認する前に、このBEPSプロジェクトの15の行動計画の確認からしてみます。15の行動計画のタイトルをそれぞれ挙げてみようと思います。

 

■BEPSプロジェクトの15の行動計画(最終パッケージ)

参考(国税サイト):https://www.nta.go.jp/sonota/kokusai/beps/index.htm

行動1:電子経済の課税上の課題への対処

行動2:ハイブリッド・ミスマッチ取極めの効果の無効化

行動3:外国子会社合算税制の強化

行動4:利子控除制限ルール

行動5:有害税制への対抗

行動6:租税条約の濫用防止

行動7:恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止

行動8-10:移転価格税制と価値創造の一致

行動11:BEPSの規模・経済的効果の分析方法の策定

行動12:義務的開示制度

行動13:多国籍企業の企業情報の文書化

行動14:相互協議の効果的実施

行動15:多数国間協定の策定

 

この中の“行動13”に移転価格の文書化のルールが記載されています。今までは一層構造(ポリシーを作成している場合には二層構造)であった移転価格の文書化を三層構造にまで引き上げ、むやみな所得移転を防止しています。

具体的には行動13において、新たな文書化ルールとして、マスターファイル、ローカルファイル、CbCレポート(Country By Country Report:国別報告書)の三つのレポートを作成すべきであると提言しています。ちなみに今までの移転価格文書と呼ばれていたものは“ローカルファイル”に該当します。

このようにアメリカのIT企業がむやみな租税回避を繰り返していたことが原因で全世界的に移転価格税制のルールを見直さなければならなくなり、今回のインドネシアの改正につながっているのです。本来はビジネスがありきで、副次的な位置づけであった移転価格税制が全世界統一ルールとなることによって規定が先行し、ビジネスによる値付けから、移転価格による値付けをしなければならないと考えているお客様が多いような気がしています。ただし、ビジネスで利益が出ているのであれば、それは正常な経済活動であり、値付けが間違えているなどとは本来はいうことはできません(関連会社取引と同様の第三者取引があり、値段が別の場合などはもちろん除きますが・・・)。赤字企業である場合、業種別の平均利益率に比して自社の利益率が低い場合、このような場合には特段の理由がなければ移転価格リスクはありますが、それ以外の皆様はそこまで焦る必要はありません(もちろん法に則ってドキュメントは保存しなければなりませんが)。

 

今後は、更に詳しく移転価格税制について切り込んでいこうと思っています。次回は、この①マスターファイル、②ローカルファイル、③CbCレポート、これらのドキュメントについて、BEPSプロジェクトではどのような記載が求められているかを解説します(基本的には、BEPSプロジェクトにより定められたこれらのドキュメントの記載内容をインドネシアにおいても利用しています)。※今後は毎週金曜日に「インドネシアの移転価格税制」コラムをアップデートさせていただきます。

もし、皆様の中に更に詳しくインドネシアの税制改正の内容を知りたい方や当コラムにて不明点がある方などは、お気軽にご質問を頂ければと思っています。

 

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