インドネシアの移転価格税制⑤ ~各国間の規定の齟齬~

2017 年 4 月 7 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。インドネシアの移転価格税制に関するコラムを書き始めて1か月が経過しました。後1か月も経たないうちに4月末を迎え、規定上は、移転価格ドキュメントの保存期限が到来します。移転価格による二重課税のリスク(金額的リスク)を勘案しての作成するかしないかの判断、作成する場合のスケジュールの確認、関連会社取引と一致する又は類似する第三者取引の存在(利益率の差異)、無形資産の整理、各国の移転価格の文書との整合、このあたりを重点的に確認してもらえればと思います。網羅的に情報を集めなければ意思決定ができないものでありますので、まずは情報収集を心がけていただければと思います。

さて、前回のコラムにおいて日本で「マスターファイル」、「CbCレポート」の作成がなかったとしても、インドネシアにおいてこれらの書類の保存が必要になってしまっているという日本とインドネシアの規定間の齟齬が問題である旨の記載をしました。ただし、これがインドネシアにおいて実務上どのように取り扱われるかは未だ明確になっていません。

そこで過去に似たような齟齬が発生した日本と中国において実際にどのように取り扱われたかを参考としてご確認ください。中国におけるマスターファイルの保存義務は、「関連会社間取引が2億元(棚卸取引)、4,000万元(役務提供)超の取引がある会社又は限定的な機能、リスクで赤字の会社」とされています。一昨年に日本と中国の規定に齟齬が発生した際には、例え日本において作成義務がなかったとしても、(実務上も)中国に保存しなければならないとされ、日本親会社が対応に追われたという経緯がありました。

 

<参考:日本と中国の比較>

【日本におけるマスターファイル作成保存義務 ※平成28年度税制改正】

①記載項目

マスターファイルの記載項目は、移転価格ガイドライン改定案の別添1に記された記載項目と同様とする

②対象企業

連結総収入金額が1,000億円未満の多国籍企業グループについてはマスターファイルの提供義務を免除する(その他はe-Taxにより、税務署長に提供)

③適用開始年月日

平成28年4月1日以後に開始する最終親事業体の会計年度終了の日の翌日から1年を経過する日までに、e-Taxにより税務署長に提供する必要がある

④言語

日本語又は英語を使用する

 

【中国におけるマスターファイル保存義務 ※平成27年特別納税調整実施弁法(意見募集稿)】

①記載項目

マスターファイルは多国籍グループ企業のグローバル業務の概況を開示する ~以下割愛~

②対象企業

関連会社間取引が2億元(棚卸:30億円程度)、4,000万元(役務:6億円程度)超の取引がある会社又は限定的な機能、リスクで赤字の会社は、同時文書(マスターファイル、ローカルファイル、特殊事項ファイルを含む)作成保存しなければならない

③適用開始年月日

関連取引が発生した年度の翌年の5月31日までに作成保存し、税務局から要求された日から20日以内に提供しなければならない

④言語

中国語を使用する、ただし、原始資料が外国語である場合、中国語の副本を添付しなければならない

 

このような齟齬があり、特に中国における「税務当局から要求された日から20日以内での提出」は(実務上)難しかったために、多額の関連会社取引を行っている企業及び赤字企業についてはマスターファイル及びローカルファイルの作成保存を行いました(マスターファイルは本来親会社が作成するもの)。インドネシアの法律を確認すると「税務当局から要求された日から30日以内の提出」が求められており、こちらも30日でマスターファイル及びローカルファイルを作成するのは(実務上)難しいと思われますので、中国の時と同様に金額的なリスクが高い会社についてはマスターファイル及びローカルファイルの作成を行うことになるかと考えられます。そのために、まずは移転価格調査を受けることによりどれくらいの金額的なリスク(二重課税のリスク)があるかを簡単にでも確認してもらえればと思います。

また、中国においては実際に移転価格の調査を受けている企業の多くが赤字企業です。インドネシアにおいても赤字企業で親会社との取引がある会社に関しては、移転価格調査の対象となり易いために特に注意をしてもらえればと思います(その中でも商社などの簡易的な機能とリスクしか担っていない会社は特に注意が必要)。

いかがでしたでしょうか。次回は調査対象となり易い企業に関して、もう少し踏み込んで書いてみようと思います。もし自社に二重課税リスクがある場合には、今後の取引をどのように変更するか、過去の取引をどのように根拠付けをするか含めて考えていく必要があります。それでは次回もよろしくお願いします。

 

インドネシアの移転価格税制④ ~日系企業の移転価格文書の保存義務~

2017 年 3 月 31 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。昨日3月30日にインドネシア移転価格税制のセミナーを行いました。2週前からの急な募集にもかかわらず多くの方にご出席いただきましたこと大変嬉しく思っております。改めて御礼を申し上げます。今後もインドネシア、日本において移転価格税制のセミナーは頻繁に行ていこうと思っていますので、引き続き、よろしくお願いいたします。

さて、本日はインドネシアの移転価格税制の「問題点」について確認していこうと思います。2016年12月30日に財務省規制としてNOMOR 213/PMK.03/2016(以下「PMK-213」と言います。)がOECDのBEPSプロジェクトに基づいて発行され、インドネシアにおいても今後移転価格税制の対応が迫られています。このPMK-213を確認してみると、インドネシアにおいて移転価格文書の保存が必要な会社は大企業だけには留まらず中小企業(厳密には日本親会社と取引をしているすべての会社)においても、その保存が求められているというところに大きなポイントがあり、今後どのように対応するかを各社、具体的に検討しなければなりません。

※PMK-213原文(参考):

http://www.jdih.kemenkeu.go.id/fullText/2016/213~PMK.03~2016Per.pdf

前回のコラムにおいて、マスターファイル・ローカルファイルの記載内容に齟齬はなく、“その他の詳細事項”に齟齬があり各社の判断が必要と記載いたしましたが、その一部に触れてみましょう。

PMK-213の2条2項に、マスターファイル及びローカルファイルの保存義務について記載されています。

【保存義務(抜粋)】

関連者間取引を行っている納税者で、次の①~③の条件に一つでも当てはまる場合には、マスターファイル及びローカルファイルを保存しなければならない。

①前年度の総収入額が500億ルピアを超える納税者

②関連者間における有形資産取引が200億ルピアを超える、又は、無形資産取引等が50億ルピアを超える納税者

③インドネシアよりも低税率(所得税)の国の関連者との取引を行っている納税者

マスターファイル及びローカルファイルの保存については、このような記載がされています。そして、ここに齟齬が含まれてしまっているのです。改めて日本の取扱いも含めて一連の流れを抜き出して追いかけてみましょう。

【一連の流れ】

①マスターファイル及びCbCレポートについては“究極の親会社(究極の親会社とはグループ全体の親会社をいう。ここでいう究極の親会社とは日本親会社を指す。)”が作成します。

②日本におけるマスターファイル及びCbCレポートは“究極の親会社の前年度の売上高が1,000億円以上” である場合に作成します。

③インドネシアにおけるマスターファイル及びローカルファイルの保存義務は、“前年度の総収入額が500億ルピアを超える場合”、“関連者間における有形資産取引が200億ルピアを超える、又は、無形資産取引等が 50億ルピアを超える納税者”、“インドネシアよりも低税率(所得税)の国の関連者との取引を行っている納税者”この三点のいずれかに該当する場合です。

お分かりになられた方も多いと思いますが、日本の親会社においてはマスターファイルの作成義務がない場合でも、インドネシアの国内法(PMK213)に則るとインドネシアにおいて“存在しないはずの”マスターファイルを保存しなければならないのです。また、日系企業がマスターファイルを保存するか否かの判定については、三つめの条件“インドネシアよりも低税率(所得税)の国の関連者との取引を行っている納税者”により、規定上は”全ての日系企業”がマスターファイルを保存する義務が生まれます(日本税率:23.4%、インドネシア税率:25%)。

規定上は”全ての日系企業”となってしまいますが、移転価格リスクが高い会社・低い会社によってその対応は異なるべきと我々は考えています。そのためにまずは移転価格のリスク診断を行い、リスクが高く移転価格のドキュメンテーションが必要とされた会社に対して移転価格ドキュメントの作成を行おうと考えております(段階的な移転価格対応)。本来移転価格ドキュメントに関しては、中小企業はその対象としないようにBEPSプロジェクトの行動13によって配慮が求められているものです。もちろんPMK213という規定がある以上はそれに則って移転価格の対応はしなければなりませんが、全て一律に、かつ、網羅的に行うということは些か乱暴かなとも思っています。まずはクライアントに合わせてどのように対応するかヒアリングベースから始めさせていただきますので、ご興味がございましたら是非お問合せ頂ければと思います。

来週の移転価格コラムの内容は、「過去日本と中国の規定に齟齬があった場合にどのように取り扱われたか」を執筆します。中国も日本も同時期に移転価格関連の税制改正を行いましたが、細かな保存規定にはやはり齟齬がありました。実務上、当該齟齬がどのように取り扱われたかを私の経験に基づいて執筆いたしますので、ご期待ください。それでは引き続き、よろしくお願いいたします。

インドネシアの移転価格税制③ ~行動13・ローカルファイル~

2017 年 3 月 24 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。来週の3月30日にインドネシアにおいて移転価格税制のセミナーを行います。事前からかなりの反響がありインドネシアの移転価格税制に皆様困られていることが良く分かります。特に12月決算の会社における移転価格文書の作成期限は4月30日であり、もはや一刻の猶予もありません。ただ、ふたを開けてみれば肝心な「マスターファイルとローカルファイルの要約表」が電子申告では提出できず、紙ベースで提出しなければならない(電子申告と紙ベースでの提出を両方行う必要がある)など、まだまだ整備されていない印象は拭えません。このような中で、いきなり税務当局から移転価格調査に入られることは可能性としてはかなり低いと思っています。ただし移転価格調査のポイントとなる上記の「マスターファイルとローカルファイルの要約表」は必ず提出するようにしていただければと思います(その他、赤字企業というキーワードも移転価格調査の大きなポイントとなりますのでご注意ください)。

さて、今回のコラムのテーマはBEPSプロジェクト行動13に規定する「ローカルファイル」についてです。BEPSプロジェクトの行動13においては、マスターファイル・ローカルファイル・国別報告書(CbCレポート)をそれぞれ作成するように謳われているのですが、行動13の各ドキュメントの説明文の前段の部分において「下記の内容をマスターファイルに記載“すべき”」という文言で書かれており、あくまでも強制力を持ち合わせているものではありません(ただし、現状ほとんどの国がこの行動計画における“マスターファイル・ローカルファイルの記載内容”に従って国内法を整備しています)。インドネシアにおいても、この行動13に従って国内法を整備しており、マスターファイル・ローカルファイル・CbCレポートに記載すべき内容は各国のそれと変わるところではありません。

それでは早速ローカルファイルの記載内容を見てみましょう。

【ローカルファイル】

(1)対象事業体

・対象事業体の経営ストラクチャー、組織図及び対象事業体の経営報告先となる者及び当該者の主要事務所の所在国に係る説明。

・当年度又は直近の年度において対象事業体の関与または影響のあった事業再編や無形資産譲渡に関する説明、対象事業体に影響を与えた取引の説明。

(2)関連者間取引

事業体が関与する重要な関連者間取引カテゴリーごとに、以下の情報を提出する。

・各関連者間取引(製造に関する役務の調達、商品購入、役務提供、ローン、無形資産ライセンス等)と取引背景(事業活動、MNE の金融活動、費用分担契約等)の説明。

・関連者間取引カテゴリーごとの取引累計額。

・関連者間取引カテゴリーごとの関連者間取引に係る関連者の特定と、関連者間の関係。

・文書化された関連者間取引カテゴリーごとの納税者及び関連者の詳細な機能分析(すなわち、果たす機能、使用若しくは寄与した資産(無形資産含む)と負担するリスクに関して、前年との比較を含め記載)。

・文書化された関連者間取引価格に直接又は間接に影響を与える可能性のある、納税者の他の関連者間取引の特定と説明。

・取引カテゴリーごとの最適な移転価格算定手法及びその算定手法を選択した理由の説明。

・必要に応じて、どの関連者を検証対象企業としたかの明示及びその理由の説明。

・移転価格算定手法を適用するに当たっての重要な前提条件の要約。

・必要に応じて、複数年度検証を行う理由の説明。

・もしあれば、選定された比較対象取引(外部又は内部)のリストと説明。移転価格分析において依拠する独立企業の関連財務指標情報(比較対象取引の選定方法及び情報源に関する説明含む)。

・差異調整の説明、差異調整の実施対象(検証対象企業か比較対象取引かあるいはその両方か)の明示。

・選定された移転価格算定手法の適用に基づき、関連者間取引が独立企業原則に則り実施されたと結論付ける理由の説明。

・移転価格算定手法の適用に当たって利用された財務情報のサマリー。

(3)財務情報

・対象事業体の対象年度の財務諸表。もしあれば、監査済財務諸表を提供し、なければ未監査財務諸表を提供する。

・財務諸表に基づく移転価格算定手法の適用に当たって利用された財務情報と切出工程表。

・分析で使用された比較対象取引の関連財務データのサマリーとその情報源。

※記載されている情報が、マスターファイルの情報と重複している限りにおいてはマスターファイルにおいて参照することが可能です。

 

インドネシアのローカルファイルの記載内容は今後コラムにて執筆予定ですが、大まかには変わりません。インドネシアのローカルファイルの記載内容には、「関連する証憑類をしっかり残しているかを記載してください。」ということが書かれており、この部分だけBEPSプロジェクトのローカルファイルの記載内容とは異なります。

また、このローカルファイルは移転価格文書の中でも一番大切なものでもあります。このローカルファイルには料率等が記載されることになり税務当局はこの料率等を否認してくるのです。マスターファイルもCbCレポートもそれをもって税務当局から否認されるわけではありません。マスターファイルは概況情報の確認のためにあるものですし、CbCレポートは正直移転価格調査の前の段階でどの企業に調査に入るかのふるいにかけるための資料です。そのためにこのローカルファイルをどのように作るかが移転価格文書作成の大きな鍵となります。(まぁ、実務上は多くの会社がTNMM:取引単位営業利益法によって簡便的にドキュメンテーションしていることが多いですが・・・)

さて先週に引き続き、BEPSプロジェクトの行動13の内容(マスターファイルとローカルファイル)を確認したのですが、このマスターファイルとローカルファイルにおいてはインドネシアのPMK213と行動13に大きな差異はなく、特段問題となることはありません。インドネシアにおいて問題となることはマスターファイル・ローカルファイルの記載内容ではなく、文書化義務者・文書作成時期などその他の詳細事項についてです。これらの部分については各国に一任されているものであり、統一のルールができていません。行動13の中には、文書化をするか否かの重要性の判断について「各国の文書化の規定には、重要性を考慮し納税者に過大な負担にならないように配慮する。特に中小企業は文書化の対象から外“すべき”」と記載されていたり、文書化の作成時期に関して「対象年度の税務申告までに作成することが“望ましい”」と記載されていたりするのですが、統一のルールではなくその他詳細事項については各国が自由に決めてしまっているという現状があります。つまり、強制力を持ち合わせていない行動13における弊害がマスターファイル・ローカルファイルの記載内容ではなく、その他の詳細事項に表れてしまっているのです。

来週からはこの行動13に従った日本の移転価格文書化のルールとインドネシアのPMK213との間にどのような齟齬が生まれ、どのような問題が今後顕在化するかを詳細に見ていければと思っています。

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