インドネシアの移転価格税制⑧ ~二重課税のリスク~

2017 年 4 月 28 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。今回のテーマは移転価格の二重課税のリスクについてです。昨年2016年12月30日にインドネシアで移転価格税制(PMK213)の改正がありました。文書の保存期限が4月30(2016年12月31日決算の会社)のために、未だ具体的な事例は発生していませんが、日本での過去の事例を基に移転価格税制による二重課税のリスクが各企業にどれくらいのインパクトを与えるかを確認してみようと思います。

 

移転価格による二重課税は、粗利率又は営業利益率という企業の根幹部分に対する更正であるためにその金額が多額になる傾向があります。例えば、海外子会社との取引が年間5億円として、税務当局から5%の所得移転が指摘された場合は2,500万円の所得が加算されます。日本において移転価格税制は最長6年(インドネシアは5年)さかのぼることができますので、加算される所得の合計は1億5千万円となります。この時の追徴税額は、延滞税や加算税を含めると7,000万円~8,000万円程度となり、中小企業がとても負担できる金額ではありません。

 

国税当局から公表されている移転価格での追徴課税の平均額は6,000万円程度ですので、日本においては関係会社間取引が5億円~10億円ぐらいの規模もターゲットとなっています。以前、国税OBの移転価格専門の税理士の先生と仕事をしていたときに、その先生から「最近は総売上高が50億円~100億円程度でも“移転価格調査”に入られている」ということを聞きました。少し前までは100億超の中堅企業以上に入っていたものが、(大きいところのローラーが終了してしまったため)その調査の規模を少しずつ小さくしています。特に50億円~100億円で国外関連者との取引が5億円~10億円ぐらいの企業は今まで移転価格調査の対象となっていませんでしたが、今後はメインのターゲットとして日本の税務当局も確認を始めることになります。

 

また、私が確認した話では三千万円程度の追徴を実際に受けてしまった会社(グループ売上規模150億円程度)が、もう二度と同じ思いをしないためにAPA(事前確認制度:事前に当局と適正価格を調整、利益率を数年間固定)を利用し、事前に当局と利益率の合意をしました。ただし、この会社は企業を取り巻く環境の変化をその利益率に反映させておらず、大きな価格変動・為替変動等によるあおりを受けて実態とかけ離れた過大な利益率によって更に数年間の追加税負担を余儀なくされてしまいました。取引額が膨大な大会社であればAPAも有用であると思いますが、中小企業にはAPAはそぐわないと個人的には感じています。

 

日本における移転価格調査は、売上規模でローラーをかけて、その次のフェーズとして関連会社取引の規模を確認する、その上で毎年の利益率の水準を確認して調査対象を決定しているように感じます。まずは売上規模でのローラーをかけて調査対象を探している姿勢から、「調査に入った際に少しでも大きな金額を追徴することを目的(又は、影響の大きな大会社ほど適正に管理されているかを確認する必要があるため)」としているのでしょう。

 

これが例えば中国ですと、まず赤字企業に対してローラーをかけ、その次のフェーズで低利益率の会社を確認する(もちろんこの範囲の中で関係会社間取引額が大きいところに目星を付ける)としています。つまり中国では「調査に入った際には必ず追徴課税を取ることが目的」なのでしょう。※赤字企業は以前のコラムでも書きましたが、税務当局側からは指摘しやすいのです。

 

インドネシアにおいても、おそらく中国方式で「調査に入った際には必ず追徴課税を取ることを目的」としてくるでしょう。そもそも移転価格税制の価格の評価はかなり難しいものであり、利益が出ている状況では利益移転と正常なビジネスの範囲内という線引きが簡単にはできません。赤字であれば、それ自体が正常なビジネスではないために関係会社間の取引価格がおかしいと指摘しやすいのです。インドネシアにおける移転価格税制は整備されたばかりであり、税務当局も(知識がないため)いきなり真正面から戦ってくるとは考えられず、取れるところから確実に取るという方法が採られるものと考えています。

 

ただでさえ金額が高額になりやすい移転価格税制ですが、インドネシアにおいて移転価格文書を保存しなかった場合には申告書類の不備とされ追徴税額の100%の課徴金が科されるリスクがあります。つまり保存がなければ税務当局に勝手に利益率を決められて課税され(文書保存がないため反証不可)、かつ、その追徴税額の100%を課徴金として追加で科される、つまり200%の追加負担を求められる可能性があるために注意が必要です。

 

事前に自社の二重課税のリスク範囲・金額をしっかりと認識し、文書化を進めてもらえればと思います。なお、弊社では移転価格簡易リスク診断も業務として行っておりますので、ご興味があれば是非お気軽にご連絡ください。

 

インドネシアの移転価格税制⑦ ~価格算定方法~

2017 年 4 月 21 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。今回のテーマは移転価格の価格算定方法についてです。独立企業間価格(移転価格税制では、関係会社取引においても独立した第三者取引の価格と同水準の価格であることが求められ、その価格を独立企業間価格という。)の算定に当たっては、独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法、取引単位営業利益率法、利益分割法の5種類の方法より一番実態に則している方法を選定します(ベストメソッド方式)。それでは独立企業間価格の算定方法を一つずつ確認してみましょう。

 

【独立価格比準法】

独立価格比準法とは、特殊関係にない売手と買手が、国外関連取引に係る棚卸資産と同種の棚卸資産を当該国外関連取引と同様の状況の下で売買した取引額をもって国外関連取引の対価の額とする方法をいいます。関係会社取引における次の条件を満たす内部コンパラブル(第三者との間で行われる類似の取引)がある場合には、独立価格比準法の採用を検討します。

・社内の製品区分(型番)は異なるが、性状、構造、機能等の面で同様の製品である場合

・関係会社取引と第三者取引において機能面での差がない場合

・取引規模もおおむね同様であり、両取引の契約条件(引渡条件、決済条件、製品保証、返品条件等)も同様の場合など

 

【原価基準法】

原価基準法とは、国外関連取引に係る売手の棚卸資産の購入、製造その他の行為により取得した原価の額に通常の利潤の額を加算して計算した金額をもってその国外関連取引の対価の額とする方法をいいます。関係会社取引における次の条件を満たす内部コンパラブル(第三者との間で行われる類似の取引)がある場合には、原価基準法を採用を検討します。

・同種の製品ではないが、性状、構造、機能等の面で類似する製品である場合

・関係会社取引と第三者取引において機能面で類似し、独自性のある活動は見られない場合

・両取引の契約条件(引渡条件、決済条件、製品保証、返品条件等)はおおむね同様である場合など

 

【再販売価格基準法】

再販売価格基準法とは、国外関連取引に係る買手の棚卸資産の販売その他の行為による販売価格から通常の利潤の額を控除して計算した金額をもってその国外関連取引の対価の額とする方法をいいます。よって、製造業者や加工業者には向かない方法となります。関係会社取引における次の条件を満たす内部コンパラブル(第三者との間で行われる類似の取引)がある場合には、再販売価格基準法の採用を検討します。

・買手が独自性のある広告宣伝・販売促進活動は行っていない場合

・競合商品であり、同種の商品ではないが、性状、構造、機能等の面で類似している場合

・売上規模や販売機能(広告宣伝、販売促進、アフターサービス、包装、配達等)がおおむね同様である場合など

 

なお、これらの3つの方法は「基本三法」と呼ばれ客観性の高い方法と考えられていますが、内部コンパラブルがない場合には比較可能な取引の抽出が難しい場合が多く、次のTNMMが実務上採用されることが多い傾向にあります。その場合には、「独立価格比準法、再販売価格基準法及び原価基準法については、比較可能な取引を把握できなかったということから適用できない」というような文言をドキュメントに記載し、TNMMがベストメソッドであることを記載します(その他の方法の否定によりベストメソッドを抽出することが一般的)。

 

【取引単位営業利益法(TNMM:Transactional Net Margin Method)】

原価基準法及び再販売価格基準法が類似企業の売上総利益率をベースに価格算定を行うのに対し、TNMMは類似企業の営業利益率をベースに価格算定を行う方法となります。検証対象者が製造業者か販売業者か(又は買手か売手か)に応じ、類似企業の総費用営業利益率又は売上高営業利益率等を用いて検証対象者が獲得すべき営業利益を算定し、そこから取引価格を逆算する方法です。また、この方法の採用は、より簡易な機能を担っている会社を検証対象とすることが多く、それゆえに比較可能な取引の抽出もその他の方法に比べ簡単である場合が多く、実務上採用されやすい方法となります。

 

【利益分割法】

利益分割法は、関連者間取引の合算利益に対して貢献した貢献度に基づき、各自の利益額を算定する方法であるために各関連企業が関連者取引から得る総利益(見積利益)を算定してから計算します。利益分割法には、比較利益分割法、寄与度利益分割法、残余財産分割法があります。ただし、利益分割法は、比較対象取引に係る所得配分割合や対象となる国外関連取引に係る所得発生要因を推測することが難しく、実務上採用されづらい方法となります。

 

ポイントは内部コンパラブル(第三者との間で行われる類似取引)があるか否かと販管費に該当する関連者間取引があるか(営業利益での比較=TNMM)などになります。ただし、ローカルのコンサル会社などにレポート作成を依頼した場合には、どんな場合でもTNMMを利用することが散見されますが、しっかりと他の方法の検証をしなければ移転価格調査で問題となってしまうこともありますので注意していただければと思います。

さて今回のコラムはいかがでしたでしょうか。次回は、移転価格の二重課税のリスクについて、日本の実態を基にインドネシアにおける追徴額がどれくらいになるかを考えてみようと思っています。それでは次回コラムもよろしくお願いいたします。

 

インドネシアの移転価格税制⑥ ~調査対象となりやすい会社~

2017 年 4 月 14 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。今回のテーマは移転価格調査の対象となりやすい会社についてです。昨年の12月末にインドネシアの移転価格税制(PMK213)が改正され、今月末(2017年4月末)に多くの企業がドキュメントの保存期限を迎えます。未だこのPMK213を基にした移転価格調査はありませんが、どのような企業に移転価格調査が入りやすいかについては、既に移転価格税制が整備された各国において前例がありますので、今日はその前例を確認してまいりましょう。

 

インドネシアにおいても、移転価格の調査に入られる企業はその他各国と変わりませんので、次に掲げる企業に関しては調査の可能性が高いと認識してもらえればと思います。

【調査可能性が高い企業】

①過去に赤字の事業年度がある

②前年までは黒字であったが赤字に転落した

③利益率が一定ではない

④原価割れで販売している個別の製品群がある

⑤売上又は仕入の大部分が関連会社からのものである

⑥親会社への多額のロイヤルティ、役務提供フィーを支払っている

⑦最終消費財を製造する企業であり、かつ同業他社と比較して価格が大きく異なる

⑧同種の製品や材料等を関連会社とは異なる価格で取引している

 

これらの中で毎年の申告書から税務当局が簡単に確認できる項目は①から③となり、そのため(特に機能・リスクが限定的な)赤字企業や利益率が一定でない企業に関しては調査に入られやすいのです。また、インドネシアには人件費や土地が安いというマーケットプレミアムがあるにも関わらず、利益が出ていないのは価格を操作しているためという論理で指摘されてしまいます。つまり赤字企業は税務当局からしたら”入りやすい”、かつ、”取りやすい”とされているのです。これは移転価格税制が整備された他の各国でも顕著であり、まずは赤字企業から指摘される傾向にあります。

 

調査に入られやすい企業は赤字企業と分かりましたが、調査に入られた後に追徴が取られやすいという企業はどのような企業でしょうか。

もちろん前述の通り、赤字企業は調査に入られた後にも取られやすく、他にも内部コンパラブル(第三者との間で行われる類似の取引)があるにも関わらず、関連当事者間の取引との価格(料率)に差異があるような場合は取られやすいので注意が必要です。もう少し簡単に言うと同じ製品を親会社と第三者に違う価格で販売していた場合には取られやすい。つまり、親会社は子会社との間の取引価格を決められるからといって、子会社が第三者に対して2,000円で売っているものを子会社から1,000円で購入していれば通常よりも1,000円利益が少なくなるために、この1,000円に対して税務当局から税金をかけるよう指摘されてしまうのです。

難しい言葉を取っ払うなら、①親会社と同じものを違う会社に違う価格で売っている(買っている)、②親会社と似ているものを違う会社に違う利益率で売っている(買っている)ときは違う会社に売った(買った)価格(利益率)が正しいとされてしまうのです。この①の場合には、「独立価格比準法」を、②の場合には「原価基準法又は再販売価格基準法」をそれぞれ採用するのですが、この価格の算定方法については次回のコラムにしましょう。

さて、今回は移転価格の調査対象となりやすい企業をピックアップしましたが、①調査対象となりやすい企業と②調査に入られた際に多額の追徴が科される企業をしっかりと分けて考えていただければと思います。それでは次回のコラムをお楽しみに!

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