インドネシアの移転価格税制⑭ ~利益率レンジ~

2017 年 6 月 9 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。移転価格税制において比較対象企業の母集団をデータベーススクリーニングよりピックアップし、定量分析及び定性分析を経て比較対象企業を抽出した後に重要になる概念が利益率レンジです(データベーススクリーニングについての詳細は:http://futureworks-inc.jp/blog/580)。

通常データベースより選定される比較対象企業は、1社ではなく複数社であり、これらの比較対象企業の営業利益率を独立企業間の利益率レンジとして、検証対象企業の利益率との比較検討を行います。この独立企業間の利益率レンジに関して、OECDガイドラインにおいては次のように記載されています。

「独立企業間価格幅より(パラグラフ3.55)」

取引条件が独立企業のものに一致するか否かを判断する上で最も信頼できる単一の数値(例えば、価格又は利幅)を得ることによって、独立企業原則を適用することができる場合がある。しかしながら、移転価格の算定は厳密な科学ではないため、最も適切な方法を適用した結果、その全てについて相対的に同等の信頼性があるという複数の数値からなる幅が生み出される場合も多くある。このような場合、この幅を構成している数値の間にみられる差異は、一般に、独立企業原則の適用は独立企業間であれば成立したであろう条件の近似しか生み出さないという事実によりもたらされたものといえよう。幅の中の様々な数値は、比較可能な状況の下で比較可能な取引を行う独立企業が当該取引につき全く同一の価格を設定しない場合もあるという事実を表しているといえよう。

この文言は弊社の作成するローカルファイルにおいても本文中に含まれるぐらい利益率レンジの考え方の根幹となる部分です。もちろん理想を言えば全く同じ企業が存在し、ビタッと利益率が一緒になることですが、実務上はそのようなことはあり得ません。特にTNMMを採用している場合には、その特性上、比較可能性がその他の方法(CUP法、RP法、CP法、PS法:http://futureworks-inc.jp/blog/573)よりも厳密には求められておらず、製品の多様性や機能の差異などもある程度は認められていることから、利益率レンジを用いることとなります(従前の日本においてはこのような利益率レンジの採用ではなく、平均値などの特定のポイントを用いて課税処分が行われていました)。

ただし、このような場合にあっても検討している比較対象企業の全てが必ずしも同程度の比較可能性を有していないということもあります。そのために実際の独立企業間価格の決定は、必然的に優れた判断を行うことが必要です。実務上、優れた判断が可能として最も一般的に採用されているレンジが四分位レンジです。

四分位レンジとは、比較対象企業の利益率を数値の高い順に並べ、上位25%と下位25%を取り除いた50%のレンジを指します。この四分位レンジが国際的にも多く使用されている方法であり、多くの移転価格ドキュメントがこの四分位レンジを用いて作成されています。四分位レンジにより検証対象企業の利益率との比較検討が行われ、「四分位レンジの範囲内又はそれ以上の利益率であるために所得移転は発生していない」と結論付けられるのです。※なぜ移転価格ドキュメントの結論が「所得移転は発生していない」となるのかは ⇒ http://blog.livedoor.jp/bnthailand/archives/15808442.html

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。インドネシアのみならず各国の移転価格ドキュメントの作成も行っていますので、ご興味がある方は是非お気軽にお問合せ下さい。

インドネシアの移転価格税制⑬ ~データベーススクリーニング等~

2017 年 6 月 2 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。今日は比較対象企業の選定のプロセスについてお伝えいたします。比較対象企業の選定は次の各ステップより成っています。

【比較対象企業の選定プロセス】

①データベーススクリーニング

②定量分析

③定性分析

④比較対象企業の選定

まず、①のデータベーススクリーニングですが、移転価格税制のスクリーニングで世界的に使われているデータベースはビューロ・ヴァン・ダイク社のOrianaやトムソン・ロイター社のONESOURCEなどがあげられます。これらのデータベースに条件(国、産業分類コード、上場の有無など)を入力し、比較対象企業の母集団をまずはピックアップするのです。未上場企業を入れて母集団を抽出するとそれなりの数にはなりますが、次の定量分析によりはじかれることも多くなりますので、上場企業のみで抽出することも多いです。

次の定量分析ですが、こちらもデータベースに条件(財務データの取得可能性、営業損失、研究開発費比率、事業規模など)を設定します。先ほど、未上場企業を入れて母集団を抽出しても定量分析ではじかれると記載したのは、未上場企業は財務データの取得が困難であるためです。また、事業規模の調整などで母集団の数はある程度調節できます。

次の定性分析ですが、こちらはデータベースに諸条件を入力する訳ではありません。定量分析後の母集団が本当に自社の比較対象企業として適正かを定性的に判断します。例えば、企業ホームページやアニュアルレポートによる機能・リスク・製品の類似性の比較等によって比較対象企業にそぐわないものは外します。ただし、データベースに入力されている企業は基本的に上場企業(絶対数が圧倒的に少ない)のため、スクリーニングの条件を厳密にすればするほど、比較対象企業の数は少なくなってしまいます(若しくはなくなってしまいます)。どこまで含めるか、どこまで外すか、移転価格税制の文書化で判断が一番入る部分かと思います。

各国の論文等でも比較対象取引の比較可能性については、多く取り上げられている所であり、その恣意性には疑問も投げかけられています。そもそも移転価格税制の考え方(各国の規定)は発達してきていますが、実務対応が追い付いておらず(インフラがあまり整備されていない状態)、インドネシアにおいても現状の最も合理的と考えられる方法により行う以外にはありません。特にインドネシアのような発展途上国はデータベースからの母集団の抽出数も先進国より圧倒的に少ないので、ある程度の”幅”はどうしても発生してしまいます。

比較対象企業の抽出が完了したら、母集団の数、抽出経緯、抽出企業の詳細(利益率)、等を記載し、独立企業レンジを算出します。独立企業レンジの算出もフルレンジ法や四分位レンジ法などいくつか方法がありますが、それはまた改めて書こうと思います。今回はデータベースからのスクリーニングについて記載しましたが、インドネシアでの本当の闘いは母集団の数との闘いかもしれません。少ない母集団でもっとも理論的な方法を選んでいただければと思います。

インドネシアの移転価格税制⑫ ~独立企業間価格算定方法の選定~

2017 年 5 月 25 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。第7回のコラムにて”移転価格の価格算定方法”について記載いたしました(参照:http://futureworks-inc.jp/blog/545)。今回のコラムではこの移転価格の価格算定方法である独立企業間価格の選定について記載します。

インドネシアにおいてもその他各国と同様に独立企業間価格の選定においては”ベストメソッドルール”が採用されています。このベストメソッドルールとは、先日のコラムでお伝えした5つの方法(独立価格比準法=CUP法、原価基準法=CP法、再販売価格基準法=RP法、取引単位営業利益法=TNMM、利益分割法=PS法)の中で、もっとも実態に沿った方法によって独立企業間価格を算出するというものであり、次のような考察を行った上で価格算定方法を選定します。

※ベストメソッドルールのポイントは、1つの方法を選定するのではなく、その他の方法が適用できない理由もしっかりと記載することです。

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<価格算定方法選定における考察>

【CUP法】

CUP法は、内部CUP法(対象企業と第三者の取引、国外関連者と第三者の取引)と外部CUP法(第三者同士の取引)に分類することができ、これらに比較対象取引が確認できる場合に適用することができる独立企業間価格の算定方法です。

対象企業及び国外関連者は、第三者との間で対象資産と同様の棚卸資産を、同様の条件において販売又は購入を行っていません。また、第三者同士の取引を公開データ等から入手することができませんでしたので、CUP法の適用は適切ではないと判断しました。

【CP法】

CP法は、国外関連取引の売手の製造コストに適切な利益を加えることで独立企業間価格を算定します。一般的に製造業の取引価格を評価するために使用されます。

対象企業及び国外関連者は、第三者との間で対象資産と類似した棚卸資産を、類似した条件において販売を行っていません。また、第三者同士の取引を公開データ等から入手することができませんでしたので、CP法の適用は適切でないと判断しました。

【RP法】

RP法は、国外関連取引の買手の再販売価格から適切な利益を差引くことで独立企業間価格を算定します。一般的に卸売業の取引価格を評価するために使用されます。

対象企業及び国外関連者は、第三者との間で対象資産と類似した棚卸資産を、類似した条件において購入を行っていません。また、第三者同士の取引を公開データ等から入手することができませんでしたので、RP法の適用は適切でないと判断しました。

【TNMM】

TNMMは、国外関連取引に係る営業利益により独立企業間価格を算定します。

この方法においては、他の独立企業間価格の算出方法と違い高度な比較可能性を要求されてはおらず、棚卸資産や契約条件の差異による利益率の変動が比較的少ないという利点により、TNMMの適用が適切であると判断しました。

【PS法】

PS法は、対象企業及び国外関連者の双方が無形資産を保有する場合などに使用されます。

対象企業及び国外関連者は、無形資産を保有していないためにPS法の適用は適切でないと判断しました。

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これらの方法は、優先順位順に並べています(PS法は別)。そのために例えばCUP法の適用が適切と判断された場合には、「独立企業間価格の算出方法の選定においてCUP法が最も直接的な方法であります。棚卸資産取引に関してはCUPの適用が適切と判断されていますので、その他の方法は適切でないと判断しました。」というような文言を記載します。

価格の算出方法を選定した後は、いよいよ経済分析に入ります。データベース(ビューロバンダイク、ワンソースなど)を利用して比較対象企業のピックアップを行い、当社のビジネスはしっかりと独立企業間価格で行われているかを確認するのです。

※ちなみに別で書いているブログに「独立企業間価格と時価の違い」を記載していますので、ご興味があればこちら(http://blog.livedoor.jp/bnthailand/archives/15808442.html)もご確認ください。

いかがでしたでしょうか。少しずつコラムの内容も実務的な内容になってきていますので、ローカルファイルを作成する際の参考にしてもらえれば幸いです。また、6月15日(木)にインドネシアにおいて”第2回目の移転価格セミナー”を行おうと考えています。改めて内容等は公表いたしますが、実務でどのようなものを作っているのかを可能な限りで皆様にお見せしようと思っています。こちらについても併せてよろしくお願いいたします。

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