インドネシアの移転価格税制㉘ ~コンサルの見極め方~

2017 年 10 月 6 日
皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。先日、「論文を読もう!(第4次産業における論文を読むことの重要性)」というタイトルの記事を書きました。その中で、次のような文章を記載しています。
【論文を読もう!<移転価格部分>】

例えば、私が現在実務で行っている“移転価格文書の作成”を例に出してお伝えすると、コンサルを入れる判断基準が「コンサルが“作成できる”と言っている」以外に持てなくなるのです。そうするとコンサルの取る手段は「SEO対策」「メディア露出」「値下げ」などになり、一番大切な技術力の向上を本気で行うところがなくなっていくのです。少なくとも自社の経理担当者・海外事業担当は「スペシャリストたれ!」なのでコンサルの「能力」を見抜く目を養うことは必要です(一部抜粋)。

これからの社会は「多様性」による「個人向生産(個別生産)」が求められる時代へと移行するために、知識の種類が加速度的に増加していきます(一般常識の範疇で考えられたいた知識がなくなっていき、より個人的なより高度な知識が台頭していきます)。移転価格税制も一般的な白か黒かを判断するものではなく、自社に則って考えたときに「白か黒」、もっと言ってしまうと「白の割合が多いか、黒の割合が多いか」というものかと思います。

画一的なものではないので、どうしても専門的かつ抽象的なものとなります。そうすると「法律で必要とされており、コンサルが作成できると言っている」が作成するか否かの判断基準となってしまっています。追徴税額が数千万円にも上る可能性のある移転価格税制の文書作成に、自社の判断が介入できない現状は非常に怖いものと感じます。

ではインドネシアへの赴任者がどこまで「移転価格の内容に精通」するべきなのでしょうか。

私の考えは、「(赴任者は)移転価格税制自体に精通する必要はありませんが、現地の状況、他社の動向など関連情報はフックしておく必要がある」です。インドネシアへの赴任者は「(製造)技術」のプロフェッショナルであり、経理のプロではありません。これからの時代、会社はゼネラリストを雇うことをやめ、その部分をシステムに置き換え、スペシャリストの集まりになっていくことでしょう。スペシャリストにならなければならない人材、本来であれば「インドネシアの移転価格の内容に精通」するべきなのはローカルの経理責任者です。

・・・が、ローカルの経理責任者のレベルが1だとすると、日本本社の経理責任者(又は国際事業部、経営企画などの責任者、以下「経理責任者等」)のレベルは10ぐらいあります。つまり結果的に「日本親会社の経理責任者等」が移転価格の内容に精通せざるを得ない状況にあるのです。インドネシアにおいて移転価格が一般化されるためには後5年ほどはかかると思いますが、その間は日本のスペシャリストが機能を代替するしかありません。もちろんインドネシアの赴任者(責任者)はインドネシアのスペシャリストなので、日本親会社からインドネシアで作成している企業割合などの現地の状況を聞かれて答えられないのはいけません。

その上で、日本のスペシャリストである経理責任者等がどこまで把握するかですが、「①移転価格に関するコンサルのレベルを把握する」「②作成業務フィーが適正価格で行われているかを把握する」「③自社の将来課税リスクに対してどこまで具体的な対策を示してくれるかを把握する(文書を作りっぱなしではない)」「④自社の過去課税リスクに対してどこまで隠してくれるか(見えづらくしてくれるか)を把握する」、確認すべき事項はこの4つであるために、コンサルに質問しながらこれらのことを把握できる知識は必要です。

ただし、コンサルとの知識レベルの差はいかんせん簡単には埋まりませんので、個別知識で勝負するのではなく、体系的な理解で会話をしていく必要があります。皆さんは移転価格の全体像及びインドネシアにおいてポイントとなる部分(指摘されやすい項目やインドネシア特有の項目)を知識として持っておき、その部分をコンサルに質問して、具体的な説明をしてもらうべきなのです。

そしてその上でインドネシアの「税務当局(税務調査担当官)の性格や権限」を踏まえて、今後どうするかの話を詰めていくのです。今の時代、「知識の価値」は青天井で下がってきていますが、「知恵の価値」は極端には下がりません。時代背景を理解していると、知識を喋ることを躊躇するコンサルは実は「知識がない」コンサルであることが多いと分かるのです。

対応すべきコンサルを選ぶポイントは上述の通り4つあり、いずれも大切です。
【重要ポイント】
①移転価格に関するコンサルのレベルを把握する
②作成業務フィーが適正価格で行われているかを把握する
③自社の将来課税リスクに対してどこまで具体的な対策を示してくれるかを把握する(文書を作りっぱなしではない)
④自社の過去課税リスクに対してどこまで隠してくれるか(見えづらくしてくれるか)を把握する
移転価格文書は作成しても過去の課税リスクが消えることはありません(作成することによってむやみに指摘されることはなくなりますが)。そのために、これをもって今後どのように指摘リスクを減らしていくかなど将来の話ができるコンサルを見つける必要があります。「円建親子ローンはダメ、ルピア建親子ローンへ借換して下さい※どちらにしろ運用はルピアで行っているので、円建てにはせずに支払利息の指摘を受ける芽を摘んでおく(契約を円建てにしているだけでリスクなら、ルピア建ての契約に巻き直す)」などの具体的な話が、移転価格文書を叩き台としてできればベストです。

インドネシアの移転価格税制㉗ ~利用可能な情報とは?~

2017 年 9 月 28 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。インドネシアの移転価格税制(PMK213)には、第3条の1項に次のような文言が含まれています。

【原文】
Dokumen Penentuan Harga Transfer sebagaimana dimaksud dalam Pasal 2 ayat (1) huruf a dan huruf b, wajib diselenggarakan berdasarkan data dan informasi yang tersedia pada saat dilakukan Transaksi Afiliasi.

【内容】
マスターファイル(2条1項aの書類)及びローカルファイル(2条1項bの書類)については、その時点での利用可能な情報を使用して作成されていればよい

今回のコラムはこの「その時点での利用可能な情報を使用」という文言の範囲について検討してみたいと思います。たまにインドネシアのお客さんから聞くのが「その時点で社内資料が用意できていないのであれば、この条項(3条1項)から今ある(社内に現存する)資料だけを保存してください、と言われています」という文言です。これはどうでしょうか?

もちろんダメです!

ここに言う「その時点での利用可能な情報を使用」というのは情報(証憑)がないことを認める条文ではありません。入手努力に対するコメントでもありません(入手努力はしたが入手できなかったなど)。これは、例えば、マスターファイルの作成において親会社との決算日のずれ(インドネシア子会社12月、日本親会社3月)によって、親会社の財務データが保存期限まで(決算日から4か月、つまり4月末)に現実的に入手できず、昨年のデータで代用するような場合以外には認められません。
※このような状態を危惧して、その他各国ではマスターファイルの保存期限が決算日から1年など長期間の国が多いのです。

例えば、税務調査の際に「書類が用意できなかった(3条の1項に則って現存する書類によって作成している)」という言い訳は、現実的に不可能である場合以外には推計課税(税務当局が利益を勝手に決めて課税してくる)の対象となる可能性が濃厚であるために注意してください。

これは既に日本やその他諸国において判例が出ているものですので、例えPMK213に「マスターファイル(2条1項aの書類)及びローカルファイル(2条1項bの書類)については、その時点での利用可能な情報を使用して作成されていればよい」とあったとしても、拡大解釈をしないようにしてもらえればと思います。

【お知らせ】

日頃お世話になっているインドネシアの皆様向けに今月からニュースレターを始めました。現在は名刺交換等をさせていただいた方を中心にお送りしておりますが、下記のブログにてお送りしたニュースレターの内容を記載しております。もし、ご興味がございましたら、こちらのブログも是非チェックしていただければ幸いです。

5分で分かるインドネシアビジネス。

インドネシアの移転価格税制㉖ ~税務調査に係る調査担当官の権限~

2017 年 9 月 17 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。今回のコラムは「税務調査に係る調査担当官の権限」についてお話できればと思っています。移転価格の税務調査の現状は移転価格調査というよりも、今までの税務調査の延長でその中で移転価格文書を提出するような形式になっているようです。移転価格文書を作成していない会社への税務調査では引き続き、ロイヤルティやマネジメントフィー、支払利息が多く指摘されています(親会社に対する支払いは問題になることが非常に多いです)。

さて、今日のコラムでは、インドネシアの税務調査では「なぜ、一方的な追徴がなされるのでしょうか?」、「なぜ、アンダーテーブルを求められることがあるのでしょうか?」、「なぜ、追徴税額の根拠が示されないのでしょうか?」、とこのあたりの解説ができればと思っています。

 

これは、インドネシアの税務調査担当官に付与されている権限及び立証責任に問題があります。

【税務調査担当官に付与されている権限】

  • 税務調査通知書(SPPP)の発行権限
  • 調査査定書(SPHP)の発行権限
  • 更正通知書(SKP)または徴税通知書(STP)の発行権限
  • 納税額等を決定する権限
  • 書類の押収権限(1月以内の提出)
  • 資料作成を求める権限
  • インドネシア語に翻訳させる権限
  • 市場価格の算定権限

【立証責任】

  • 納税者側に立証責任

インドネシアにおける税務調査においては税務調査担当官が過大な権限を保有しているのです。つまり、税務調査担当官は、「税務調査を始めることができ、市場価格を自分で決めて納税額を決定することができ、調査の説明資料(SPHP:調査査定書)を自身の判断で作成することができ、自分の言っていることは正しいので(納税者側で不服があるなら)裁判を起こして立証してくださいというスタンス」なのです。そりゃあ、税額ふっかけてアンダーテーブル要求してきますよ。一個人にこんな権限付与していれば・・・・。

 

ちなみに日本の税務調査の調査担当官の権限と立証責任は次の通りです。

【日本の税務調査担当官に付与されている権限】

  • 質問検査権

【立証責任】

  • 基本的には課税庁側に立証責任(明確に定められてはいませんが、過去の判例でそのように考えられています)。

ここにいう「質問検査権」とは、国税通則法において定められており「質問」、「検査」、「提示」、「提出」、「留置」が含まれています。つまり日本の税務調査担当官は“事実関係の洗い出し”が仕事であり、その職務内容に“判断(意思決定)”は含まれていません。判断(意思決定)するのはあくまでも税務署長です。なので、日本の税法の多くには、「税務署長は、○○することができる」というような、税務署長が主体となった書き方がなされているのです。

インドネシアでロイヤルティやマネジメントフィー、利息やその他の役務提供費用がことごとく否認されているのはこのような背景があるのです。あまりにも理不尽な税務調査ですが、インドネシアではこれがスタンダードなので、その上でどのように対応するかを日系企業サイドも考えなければなりません。

では実際にはどのように対応するか?

良く言われているのが(コンサルが良く言うのは)「ロイヤルティは3%まで、マネジメントフィーは払わない方がよい、利息はUSDが2%~3%、IDRが5%まで、役務提供費用は実費精算」などでしょうか。皆さんも一度は聞いたことがあるかと思います。ただ、それに合わせてもインドネシアの担当官は「ロイヤルティ3%ダメ、1.5%にして」、「USD利率3%ダメ、1.5%にして」と根拠もなし(良くわからない根拠と共に)にいってきます。正直いうと親会社に対して“何かしらの支払い”を行っていれば何だかんだ理由を付けて指摘されているように思います。※もはやパーセンテージの問題ではありません。どこが指摘しやすいかです。

方や日本の税務調査はどうでしょうか。「ロイヤルティの収受は必要、利益水準から考えて3%は収受して」、「利息はUSDスワップレート(10年)+スプレッドで3%程度が適正」、「親会社の保証があるなら保証料を収受して」など、根拠を示して指摘が行われます。その時によく日本の親会社が口にするのが・・・・

「インドネシアでロイヤルティの支払を否認されたから収受することができない」

これは日本の税務当局は全く関係ない話で、「インドネシアでおかしな指摘を受けたならインドネシアで裁判を行ってください」となります。裁判の結果なら耳を貸しますよと。もちろん日本の親会社はそんなこと言われてもどうすることもできないので・・・・

「じゃあ、どうしろってんですか?」

日本の税務当局は冷静に、「ロイヤルティで収受できないなら、違う項目でも良いので、とにかく収受してください。異論は認めません。」となります。つまり、形式は問わずに、実態を伴わせる必要があります。インドネシアでは、「ロイヤルティはダメ」とあくまでも形式で指摘してきます。なのでインドネシアで一番指摘されづらい項目で親会社への還流を行うことを検討すべきです。

一番指摘されづらい項目は「棚卸取引(材料購入や製品販売の取引)」であることは間違いありません。もちろん棚卸取引においても十分な利益が計上できていなければ、価格の適正性を指摘されることはありますが、ロイヤルティやマネジメントフィーのように「十分な利益が出ていたとしても指摘される項目(ここ重要!!)」ではありません。

移転価格ドキュメントの価格設定方法がTNMM(内部コンパラがないの)であれば、上記のロイヤルティやマネジメントフィーについては棚卸資産取引価格に含めた上で、利益率が適正か検証を行えばよいのです。日本親会社においては税務当局説明用に棚卸資産取引価格の内訳資料を用意しておけば問題ありません。

移転価格ドキュメントは法律に従ってただ作るものではありません。今後の追加課税リスクをどのように減らしていくかを検討するために作成するものでなければなりません。確かにインドネシア特有の指摘項目などがあり、その根拠などもあまり示してくれない国ですが、その中でも指摘されづらい項目がありますので、悪い部分だけをみて対処療法を行うのではなく、良い部分において仕組化を考えることも必要です。

海外子会社からの利益の還流方法については次のブログで過去に書いていますのでご参考にどうぞ!

http://blog.livedoor.jp/bnthailand/archives/17831212.html

※簡単に言うと、「配当」、「利息」、「取引(ロイヤルティ、役務提供、棚卸取引)」ぐらいしか、利益の還流方法はありません。

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