税務調査の流れと留意点

2021 年 9 月 9 日

今回は、税務調査についてです。

コロナ禍以降、インドネシアでは財政バランスが急速に悪化しています。財政補填のため、2020年から税務調査が頻繁に行われるような傾向にあります。また、指摘内容も言いがかりのようなものが多くなっているようです。これは、1人の税務担当官が、多数の税務調査案件を抱えているため、短期間で調査を終えざるを得ないことが影響しているようです。また、日本の感覚では信じられないことですが、税務署ごとにチャレンジングな税収ノルマが掲げられています。

インドネシアの税務調査は複雑です。現地駐在員がよく理解をしていないと、なにも知らないままローカルスタッフが進めてしまって、コントロール不能のまま、気づいたら徴税通知が届いている、なんてこともよく聞きます。そこで今回は税務調査の流れと留意点を見ていきたいと思います。

 

日系企業の場合、税金の還付請求をトリガーにして税務調査が開始されることが多いです。この場合は、税務調査は1年以内に完了することが要求されています。また税務署は、税法遵守を行っていない可能性のある納税者を自動で抽出するシステムを持っています。そうして抽出された企業に対して、税務調査開始の通知が届くこともあります。

自動抽出の基準のひとつに、「インドネシアより低い法人税率の国に所在する国外関連者と取引している納税者」というものもありますので、シンガポールなどの会社と取引を行っている会社はより注意が必要です。

税務調査は2種類に大別されます。全ての税目を調査範囲とする All Tax Auditと、税務調査の範囲が特定の税目に限定された Single Tax Audit です。通常は、法人税の還付請求をした場合はAll Tax Audit、VATの還付請求をした場合は Single Tax Auditとなります。したがって、VATの還付請求のみをした場合は、源泉税や法人税について調べられないことが多いです。

 

税務調査の流れは以下の通りです。

1.税務調査開始通知書(SPPP)

2.資料提出

3.資料の精査及びフィールドワーク

4.調査査定書(SPHP)及びポジションペーパーの回答

5.ポジションペーパーへの回答

6.徴税通知書(STP)の発行

7.異議申立て

8.税務裁判

このうち今回は1~6までを見ていきたいと思います。

 

1.税務調査開始通知書(SPPP)

税務調査は、税務調査開始通知書(SPPP)が送付されてくることから始まります。以前は税務担当官が直接事務所にやってくることもありましたが、コロナ禍以降は郵送が多いようです。SPPPには、初回の税務署との面談日程や、提出資料が記載されています。

 

2.資料提出

原則としては1週間以内に提出しますが、現実的に難しいことがあります。税務署との交渉により、1か月程度の延長が認められます。提出資料は多岐にわたり、中には提出データの取りまとめ方法がローカルスタッフではよくわからないものもあると思います。税務調査対応に不慣れな場合は、この段階から税理士や税務コンサルタントにサポートを依頼することを考慮しておく必要があります。また、どういった資料提出依頼があって、それに対してローカルスタッフは何を提出する予定なのか、把握しておくことが望ましいです。過去に税務的にグレーな処理を行っている場合はなおさらです。

 

3.資料の精査及びフィールドワーク

資料の提出が終わったら、担当官が資料の精査とフィールドワークを行います。フィールドワークは、コロナ禍以降行われないことも多く、メールでのやりとりのみとなることがあります。この間に、追加の質問や追加のデータ提出依頼があります。また、次のステップのSPHPが正式に発効されると、ポジションペーパーの提出をしても覆らないことが多いです。したがって、提出したデータに関する無用な誤解を生まないためにも、この段階で担当官とのコミュニケーションを密に行っておき、自社の見解をはっきりさせておくことが肝要です。特に、担当官との関係性が良好であれば、正式なSPHPが発行される前に、どういったポイントを指摘する予定なのか、教えてくれることがあります。その中に明らかに反論可能なものが含まれていれば、事前に反論しておくことが必要です。通常は3~6カ月程度となることが多いですが、コロナ禍においては1年以上の長期にわたることもあるようです。これは、担当官が現在多くの案件を抱えていることが影響していると思います。1年近く連絡がなかったからといって、税務調査が何もなく終わったとは限りませんので注意が必要です。

 

4.調査査定書(SPHP)及びポジションペーパーの回答

担当官から、査定内容と納税不足内容を記載したSPHPが発行されます。この査定内容に不服がある場合、7日以内に答弁書(ポジションペーパー)を作成して提出することができます。期限内にポジションペーパーを提出しなければ、査定書の内容に同意したとみなされます。前述の通り、SPHPが正式に発効されると、ポジションペーパーの提出をしても覆らないことが多いです。また、SPHPには税務署側の計算根拠が示されていないことが多いです。これらの点は、3.の段階でクリアにしておくことが非常に重要な点となります。

 

5.ポジションペーパーへの回答

担当官は、ポジションペーパーを受領してから2営業日以内に、最終的な徴税通知の内容を決定する必要があります。また、この段階で、最終面談の日程が通知されます。最終面談には、社長のほか、資格をもった税理士・コンサルタントやあらかじめ通知しておいた従業員は同席可能ですが、通常は外部のコンサルタントの同席は認められません。面談当日はその場で徴税通知内容が伝えられ、査定書に同意する場合は、その場で査定書にサインをします。SPHPの段階で税務署の指摘内容はわかっていますので、同意するか、それとも異議申し立てをするのか予め戦略を決めておくことが重要です。また、課税内容の修正の要請や、納税者の見解を述べることはできますが、この段階になって反論したとしても、徴税結果が覆ることは基本的にないのが現実です。

 

6.徴税通知書(STP)の発行

5.の最終面談の後に、徴税通知書(STP)が送られてきます。5.で同意している場合は、発行日の1か月以内に納税する必要があります。この内容に不服の場合、次の異議申し立てのプロセスに進むことができます。この場合、STP通りの金額をいったん支払って進むのか、払わずに進むのかを選択できます。支払って進み、仮に異議申し立てが認められた場合、その分の利息を請求できます。払わずに進み、仮に異議申し立てが認められなかった場合、徴税金額にさらに50%上乗せされた金額が課せられます。

 

7.及び8.のプロセスは次回以降見ていきたいと思います。

コロナウイルス感染拡大を受けた追加措置

2021 年 7 月 9 日

インドネシアでは6月中旬ごろから爆発的に感染者数が増えており、7月6日時点で一日の新規感染者数が3万人を超え、新規感染者数は過去最大となっています。大使館からのメールで確認している方も多いと思いますが、7日1日付で、感染拡大防止に関する追加措置が発表されましたので、弊社リーガルチームで確認した内容も踏まえて、主な点についてみていきたいと思います。

 

【Ⅰ.緊急活動制限】

もともと緊急活動制限(PPKM)が出されていましたが、さらに活動が厳しく制限されています。対象地域はジャワ島及びバリ島全域で、主に下記のような内容です。

  1. 必須分野(銀行やインフラ、情報通信など)以外のビジネス活動は、原則100%在宅勤務とする。
  2. 必須分野は50%の人員は在宅勤務とする。
  3. 飲食店の営業は、店内飲食禁止。デリバリーのみ。
  4. マスク着用義務
  5. 礼拝施設は閉鎖
  6. 国内移動には、1回目のワクチン接種証明書および、48時間以内の陰性証明書の提出がもとめられる。

 

国内での陰性証明書については、有効な陰性証明を発行できるクリニックが指定されました。

いまのところ7月20日までとなっていますが、これは暫定的な決定で、延長される可能性もあります。

なお、製造業の多くは必須分野に分類されていますので、工業省の許可を得れば、コロナ感染拡大防止のプロトコルへの遵守及び人員制限(場合によっては)をしたうえで、操業は認められているようです。

 

 

【Ⅱ.インドネシア入国及び入国後の措置】

インドネシア入国及び入国後の措置は主に以下の通りです。

  1. 外国人がインドネシアに入国する場合は、2回のワクチン接種証明書が必要
  2. 入国後の指定淑発施設での隔離期間が、もともと5日間だったのが、8日間へ延長
  3. 外国人の国内移動は、1回目のワクチン接種証明書の提出が求められる。

 

日本ではワクチン接種証明書の発行が、7月中旬以降となる見込みであるため、当面はインドネシアへの入国が難しいということになります。

 

 

【Ⅲ.ビザ査証発給要件】

現在発給が認められている査証について、申請にあたってさらに以下の制限がかけられました。

  1. PCR検査の陰性証明書の提出
  2. ワクチン接種証明書の提出
  3. 隔離に係る同意書への同意

 

このような状況下にあり、6月下旬ごろから、日本に一時避難をされる方が多くなっています。なお8月1日以降、海外在留邦人を対象に、日本に一時帰国してワクチン接種を行うことを希望する人を対象としたワクチン接種事業が日本政府によって行われる予定です。インドネシアでも、政府主導で、無料ワクチン接種プログラム(ゴトンロヨン・プログラム)が行われており、外国人も接種できることとされていますが、いまのところ接種できるワクチンの種類がシノバックなどに限られるようです。そのため、8月以降に一時帰国をして、ワクチン接種後にインドネシアに戻ることを検討されている方も多くなっています。

 

インドネシアでは政府発表が前日などに急に変更されることも多いですので、引き続き状況を注視していく必要があります。

 

年次財務報告書LKTPの提出義務

2021 年 5 月 17 日

商業省(Ministry of Commerce)が、20年3月19日に年次財務報告書(LKTP)の提出義務に関する大臣令を施行しています。これは、もともと1998年からあった法律で、歴史は古いのですが、提出方法が定まっておらず、長らく有名無実化していました。今回の大臣令の施行とともに、提出用のシステムが出来ています。いままで年次財務諸表は税務署にのみ提出をしていたかと思いますが、今後は商務省にも別途提出が必要となります。
20年はシステムが安定せず、やむを得ず提出できなかった企業も多いと思いますが、システムが安定した今年からは、より厳しく運用される可能性がありますので、留意が必要です。

【提出義務対象者】
LKTPの提出義務者は以下の通りです。
1. 以下のいずれかの要件を満たす企業
a. 公開会社
b. 公的資金配分に関連する企業(金融機関、保険会社等)
c. 証券会社
d. IDR 250億以上の資産を所有する企業
e. 銀行により年次財務報告書の監査を義務付けられている債務者

2. インドネシア国内に所在し事業を営む外国企業(支店、子会社、代理店及び契約の当事者となることができる代表事務所を含む)

3.国有株式会社、公社 及び地域会社

このうち、2.の外国企業に、外資企業は含まれていますので、外資企業はすべて提出義務があることになります。

【免除規定】
以下の当局に財務諸表を提出済みの企業は、商務省への提出を免除されます。
1. その他の規制当局
2. 金融庁など
3. 国営企業大
4. 財務大臣

公認会計士の規制当局である財務省が出している別の法令によって、財務省が各公認会計士に対し、クライアントの監査済み財務諸表の提出を求めているようです。監査を担当した公認会計士を通じて財務省に財務諸表を提出した場合、この免除規定によって、商務省への提出は免除されると考えられます。
会計監査が終わった後、監査人から財務省に財務諸表を提出していいか聞かれた企業があると思いますが、こうした事情によります。
ただし、財務省令の方は、外資企業のすべてが提出対象になっているわけではありませんので、財務省に提出していない場合は、別途商務省に提出する必要はあります。

【提出資料】
以下の公認会計士による監査済みの財務諸表をオンライン(PDF)で提出します。
a. 貸借対照表
b. 損益計算書
c. 株主資本等変動計算書
d. キャッシュ・フロー計算書
e. 借入・貸付に関する概要を示す財務諸表に関連する注記

【提出期限】
会計年度の終了から、6カ月以内に提出しなければなりません。

【行政制裁】
今回の改正で、未提出もしくは内容の不備に関する以下の制裁が定められていますので、留意が必要です。
・書面による警告
・商務省管轄の事業許可の取消

なお、提出した企業の財務情報は公開文書としてみなされ、書面による要請により公開される場合がある、とされています。
改正前の商務省令でも、外資企業は公認会計士の会計監査を受ける必要がありました。そのため、商務省に提出することはなかったものの、ほとんどの外資企業は毎年監査を受けていると思います。その監査済みの財務諸表を、年次法人税申告書に添付して、税務署に申告するのがいままでの流れでした。今後は税務署に提出の後に、商務省にも提出が必要になります。法人税申告書の期日は決算から4カ月以内、商務省へは決算から6カ月以内となりますので、スケジュールには十分ご留意ください。

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