オムニバス法制定によるビジネスへの影響

2020 年 12 月 8 日

2020年10月5日にオムニバス法案(通称雇用創出法)が議会で可決されました。可決後に5回もの草案の修正があったり、各草案でページ数が大きく変わっていたり、大規模デモが行われたり、立法プロセスの違憲性が唱えられたり。。と、インドネシアでは毎度のことながら紆余曲折あったわけですが、11月2日に正式に施行されています。条文の多くの箇所で、「大統領令にて別途定めるものとする」などとされており、まだ明確な解釈指針が出ていないことから、さらなる政府発表が待たれますが、現時点で法案から読み取れる点やビジネスに直結する点について、見ていきたいと思います。

 

もともとOmnibusは「すべてのひと、もの」を意味するラテン語で、オムニバス法とはいくつかの法案を1つの新しい法案としてまとめる、といった意味があります。インドネシア大統領のジョコ・ウィドドのお墨付きで草案が作成されたわけですが、これには主に2つの意義があったと考えます。

第一に、法令間の不整合の解消という意義です。インドネシアは、世界で最も法令数が多い国の1つとされており、法令間の多くの矛盾が指摘されていました。オランダ統治時代に起草された民法典を引き継いでおり、そこに独立後の法令や、州ごとに制定することが認められているイスラム法などが乗っかっているためですが、誰の目からみても矛盾している法令も多くありました。後述する通り、改正されたのは「雇用創出」という目的でまとめられた79法令に限られるものの、今回の改正である程度矛盾は解消されたように思います。

第二に、規制緩和によって、外国直接投資を誘致し、雇用を創出するための意義です。特に退職金などの制度改正について、一部は労働者に不利と思われる変更があったものの、ジョコ大統領は、全体としてはこの雇用創出を力説しています。このオムニバス法案によってまとめられた法律は、この目的に沿っているものになります。

オムニバス法は、79にのぼる法律を改正しまとめたものですが、今回はそのなかでもビジネスに直結し、関心が高いと思われる労働法、付加価値税法、所得税法の3つを見ていきたいと思います。

 

(1)労働法

労働法改正では、退職金に関する部分の影響は中でも大きいものと思います。細かな論点は割愛しますが、改正前では最大で32カ月でした(24年以上勤務の場合)が、これが最大で19カ月に変更になりました。しかし、以下に述べるその他の労働法の改正についても同様にいえることですが、現状の就業規則は現在の従業員に対しては引き続き有効である解釈されています。多くの企業は、改正前の労働法通りの退職金計算のテーブルを就業規則に盛り込んでいます。したがって、今回の労働法改正に伴って就業規則を変更するまでに、既に在籍している従業員に対しては、改正前の計算が適用されると考えられます。これにより、会計上の退職給付引当金の計算も、即座に影響を受ける企業は少ないものと思います。

有期雇用やアウトソーシングについても、規制が緩和されました。有期雇用については、もともと延長と更新を繰り返しても最大5年であり、5年目以降は正社員として雇用する必要がありましたが、同期間の定めがなくなりました。ただし、有期雇用として雇えるのは、「固定的ではない性質の業務に限る」とされており、つまり季節的な労働や、プロジェクト型の雇用に限られるということになります。これは改正前とほとんど同様の条件になります。

また、アウトソーシングについては、清掃業務・ドライバー・バックオフィス業務など、本業のビジネスにとって付随的・補足的な業務に限られていました。したがって厳密には本業のアウトソーシングは禁止されていると解釈されていましたが、それが廃止されました。したがって、本業に関連するようなアウトソーシングも可能になっています。

残業時間については、最長一日3時間、週14時間まででしたが、最長一日4時間、週18時間までに改正されました。インドネシア人は嫌がるでしょうが、経営に柔軟性をあたえ、可処分所得を引き上げる効果があると思います。

前述の通り、就業規則を改訂するまでは、現状の就業規則は現在の従業員に対しては有効であると解されています。このあたりの細則は政府からの発表を待たれるところですが、今後多くの企業が就業規則の改正の必要性に迫られると思われます。入社日によって、社内に不平等が生まれる可能性があり、慎重な対応が望まれます。この点は弁護士やコンサルタントに相談しつつ進められるのがよろしいかと思います。

 

(2)付加価値(VAT)税法

付加価値税法については、少々マニアックな論点ではありますが、大きな影響を受ける企業は少なくないと思います。

インドネシアでは法人設立後にVAT課税事業者登録(PKP)をしますが、PKPを取得できるまでに時間がかかることがあり、その間にVAT課税対象の商品・サービスを支払うことがあります。いままでは、PKP取得前のVATを仕入税額控除として使用することができませんでした。また、製造業などにおいては、法人設立から実際の稼働まで場合によっては数年かかることもありますが、最初の売上を計上するまでに発生したVATについては、仕入税額控除として使用することができませんでした。本改正により、これらのVATは使用することができるようになっています。これは場合によっては数千~億円単位のインパクトがあり得ると思います。

また、税務調査中にVAT申告をしていなかったことが判明したVAT-INや、税務調査の結果、追徴課税したVAT(特に、海外からのサービス輸入にかかるリバースチャージ等)について、仕入税額控除として使用することができませんでしたが、本改正により使用することができるようになっています。普通に考えれば、会社側の過失とはいえ、これらを使用できないと2重に追徴されていることと同じであり、当たり前の措置といえます。

 

(3)所得税法

所得税法については、全世界所得課税に関する改正が注目されているようですが、実のところ日本人には全く影響がないと考えられます。もともと、所得税法上の課税所得の範囲が、国内源泉所得のみなのか、国外源泉所得まで含んでしまうのかが明確になっていませんでした。これがインドネシアの課税システムが全世界所得課税(ワールドワイドシステム)といわれる所以ですが、もともとインドネシア当局は、国外源泉所得まで含める意図はなかったように思います。今回の改正により、国内源泉所得のみ課税される、いわゆる源泉地国課税システムと解釈できるように条文が修正されています。ここでいう国内源泉とは、「どこで所得が発生したか」であり、実際に所得を受領する場所は問われません。インドネシアで勤務した対価を、日本でもらおうと、インドネシアで課税されることには変わりありません。

この点は、すでに日・イ租税条約上で明らかになっている点であり、国内法より租税条約が優先しますので、本改正は影響がないと考えて問題ありません。

 

次回以降はその他の論点について、見ていきたいと思います。

 

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