インドネシアの移転価格税制⑳ ~実務上の問題点~

2017 年 7 月 27 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。今回の移転価格税制のコラムは、インドネシアの移転価格実務で実際に起こっている問題点をお伝えいたします。

インドネシアの移転価格実務で一体何が起こっているのか?

それは・・・・、「比較対象企業の抽出が困難」であるという問題です。基本的には移転価格税制はその価格の適正性を(資本関係のない)第三者との取引価格と比較して検証するものですが、インドネシアにおいてはこの検証対象となる第三者が圧倒的に少ないという現状があります。

具体的には、経済的分析(ローカルファイルにおいて、比較対象企業の抽出を行い、自社の利益率が比較対象企業の独立企業間レンジに収まっているかを確認する手続き)における比較対象企業のスクリーニングにおいて企業データベースを使用するのですが、このデータベースに登録されているインドネシアの企業数が、日本を含めた他国に比べると圧倒的に少ないという現状があります。このただでさえ少ない登録企業を更に、「インドネシア」、「上場企業」、「産業分類コード」、「支配関係」などによりソートをかけると比較対象企業の母集団が10社を切ってしまうことなども正直あります。

ただし、この母集団はインドネシアにおける広い意味での同業他社を集めたにすぎません。この中には使えない(財務データが入っていない、全く別の製品を取り扱っているなど、比較可能性が担保できない)企業もあるために、ここから更に定量分析(財務データに比較可能性があるかを判定する分析)と定性分析(財務データ以外の製品、機能、リスクなどの要因に比較可能性があるかを判定する分析)が行われ、比較可能性がある企業のみを抽出します。

比較対象企業の少ないインドネシアにおいて、厳密に定量分析及び定性分析を行うと最終的には比較対象企業が0社となってしまうこともあります。0社とはいかないまでも、比較する企業の数が少ないと、比較したとしても客観性がなくなってしまい、指摘される可能性が高まります(税務当局も同様のデータベースを利用しているために指摘は「抽出企業による問題ではなく、TNMM(取引単位営業利益法)の利用そのものが問題」になると考えています⇒詳細は、下記「利益分割法=PS法」に該当する部分を参照)。

元々このスクリーニングによる比較対象企業との比較可能性の担保は、データが豊富に入っている国(例えば日本)においても問題になることがありました。諸外国においてTNMM(取引単位営業利益法)が採用されているのも、基本三法(独立価格比準法、原価基準法、再販売価格基準法)では比較可能性が担保できないという問題点があるためです(TNMMは、製品の多様性の差異や機能の些少な差異は認容する方法のために比較対象企業の絶対数を稼ぎやすい)。

データが豊富に入っている国においても比較対象企業数を十分に確保することができずにTNMMにて評価されることが多い移転価格税制の検証において、インドネシアはTNMMを採用したとしても十分な比較対象企業数を確保することは難しい現状があります。

もちろん少ない比較対象企業においてTNMMで検証するのか、それとも他の方法によって検証するのか、比較対象企業はないという結論にするのかは会社によって判断は異なります(比較対象企業はないという結論のレポートはローカル会計事務所が作成したものでたびたび目にしますが、私的にはそれをもって適正と主張することは難しいと思っています)。

上記で、「抽出企業による問題ではなく、TNMM(取引単位営業利益法)の利用そのものが問題」とお伝えしましたが、比較対象企業(比較対象取引)を見出すことができなかった場合の最も理論的な独立企業間価格の算出方法は、利益分割法=PS法(算出方法詳細:http://futureworks-inc.jp/blog/545, http://futureworks-inc.jp/blog/573)が該当します。

PS法の一種である寄与度利益分割法は、「取引全体に係る合算利益を取引当事者の貢献割合でそれぞれに配分するよう独立企業間価格を算定する方法」とあります。つまり親子間取引のサプライチェーン全体での合算利益を親会社と子会社の貢献割合でしっかり割り当てるということがこの方法の目的です。この方法は一般に同種又は類似した比較対象企業(比較対象取引)がない場合に適用されます。そのためTNMMで比較していたとしても税務当局から「寄与度利益分割法」の採用を求められてしまうことがあるのです。ちなみに上記の「比較対象企業がない」という結論では適正性を主張することが難しいということはPS法の採用が求められるためです。

ただし、日系企業の多くはIDR(インドネシアルピア)の不安定さをリスクと感じており、可能な限り利益は日本につけるように取り組んでいます(キャッシュを円で持っておきたいという思惑があります)。そのため、多くの日系企業が、この「寄与度利益分割法」により検証すると日本に利益をつけすぎている現状(日本は黒字なのに、インドネシアは赤字など)を見ることができるのです。

実務上では、「寄与度利益分割法」の採用も視野にいれて、TNMMを利用しなければなりません。なんでもかんでもTNMMを採用すると、後で問題になることが多く注意が必要です(インドなどの諸外国ではTNMMの濫用が問題となっており、TNMMの適正性が否定される判決も出ております)。移転価格税制におけるドキュメンテーションは、将来の多額の追徴課税リスクが顕在化しないために行うものです。ただし、ドキュメントを作ったからといって追徴課税リスクがなくなるわけではなく、そのドキュメントを基に「何をするか?(どのようにサプライチェーンを変更するか?)」がポイントになります。

日本への利益還流は、基本的に「配当」「利息」「取引価格」のいずれかによって行われます。日本への利益還流は大きなテーマですが、例えばインドネシア一国だけ「取引価格」によって利益を大きく還流している場合なども問題となることですので、その他の各国を含めてグループ全体で足並みを揃えてもらえればと思います。

当社ではマスターファイル、ローカルファイル(インドネシア、タイ、日本)の作成及びその後の国際税務アドバイザリーを行うことが可能ですので、これらの業務につきお困りのお客様がいらっしゃいましたら、お気軽にお問合せいただければ幸いです。

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