インドネシアの移転価格税制⑱ ~マスターファイルにおける開示事項~

2017 年 7 月 6 日

皆様こんにちは。フューチャーワークスの片瀬です。前回まで三度(15回~17回)に渡り移転価格ポリシーの説明を行ってまいりましたが、今日はその移転価格ポリシーを記載することになるマスターファイルの開示事項について踏み込んでお話できればと思っています。

日本におけるマスターファイルの作成義務者は連結売上高が1,000億円を超える究極の親会社であり、インドネシアの保存義務(売上高500億ルピア超、又は関連会社間取引200億(50億)ルピア超の場合にはローカルファイル及びマスターファイルを保存しなければならない)との間に齟齬が発生してしまっている旨は以前にお伝えした通りです(参照:http://futureworks-inc.jp/blog/534)。

連結売上高が1,000億円を超える日本に所在する究極の親会社では日本の法律に従ってマスターファイルを作成しています。インドネシアに保存する際には、この日本の法律に従って作成したマスターファイルをインドネシア語に翻訳して保存します。インドネシアのPMK213上に記載されているマスターファイルにおける開示事項は、租税特別措置法施行規則22条に記載されている開示事項とほとんど同じです(少しの違いはありますが、そのまま翻訳しても問題ないレベルです)。

次にこの措規第22条の開示事項を確認してみましょう。マスターファイルは各国において流用するものですので、ベースとなるものは究極の親会社がある日本の規定に従って作成します。各国にて保存すべきマスターファイルの開示事項との間に齟齬があれば、その部分を修正します(基本的には各国の開示事項も同じです)。
もちろん、措規第22条は、このままでは文字が多くて読むのが嫌になるので、それぞれの文章の下に要点のみ取り出したものを記載します。

【措規第22条の10の5第1項】
1号:特定多国籍企業グループの構成会社等の名称及び本店又は主たる事務所の所在地並びに当該構成会社等の間の関係を系統的に示した図
⇒構成会社一覧(役員一覧、株主一覧)
2号:特定多国籍企業グループの構成会社等の事業等の概況として次に掲げる事項
イ 当該特定多国籍企業グループの構成会社等の売上、収入その他の収益の重要な源泉
⇒事業概要
⇒当社の強み
ロ 当該特定多国籍企業グループの主要な5種類の商品若しくは製品又は役務の販売又は提供に係るサプライ・チェーン(消費者に至るまでの一連の流通プロセスをいう。ハにおいて同じ。)の概要及び当該商品若しくは製品又は役務の販売又は提供に関する地理的な市場の概要
⇒主要商品(製品)の概要
⇒サプライ・チェーン図
⇒主要商品(製品)の市場の概要
ハ 当該特定多国籍企業グループの商品若しくは製品又は役務の販売又は提供に係る売上金額、収入金額その他の収益の額の合計額のうちに当該合計額を商品若しくは製品又は役務の種類ごとに区分した金額の占める割合が 100 分の5を超える場合における当該超えることとなる商品若しくは製品又は役務の販売又は提供に係るサプライ・チェーンの概要及び当該商品若しくは製品又は役務の販売又は提供に関する地理的な市場の概要(ロに掲げる事項を除く。)
⇒主要商品(製品)の概要
⇒サプライ・チェーン図
⇒主要商品(製品)の市場の概要
※基本的にロとハはまとめて記載します。
ニ 当該特定多国籍企業グループの構成会社等の間で行われる役務の提供(研究開発に係るものを除く。ニにおいて同じ。)に関する重要な取決めの一覧表及び当該取決めの概要(当該役務の提供に係る対価の額の設定の方針の概要、当該役務の提供に係る費用の額の負担の方針の概要及び当該役務の提供が行われる主要な拠点の機能の概要を含む。)
⇒役務提供取引に係る移転価格ポリシー
ホ 当該特定多国籍企業グループの構成会社等が付加価値の創出において果たす主たる機能、負担する重要なリスク(為替相場の変動、市場金利の変動、経済事情の変化その他の要因による利益又は損失の増加又は減少の生ずるおそれをいう。)、使用する重要な資産その他当該構成会社等が付加価値の創出において果たす主要な役割の概要
⇒機能・リスク・資産分析の概要(一覧表)
ヘ 当該特定多国籍企業グループの構成会社等に係る事業上の重要な合併、分割、事業の譲渡その他の行為の概要
⇒重要な事業再編取引等
3号:特定多国籍企業グループの無形固定資産その他の無形資産(以下第7号までにおいて「無形資産」という。)の研究開発、所有及び使用に関する包括的な戦略の概要並びに当該無形資産の研究開発の用に供する主要な施設の所在地及び当該研究開発を管理する場所の所在地
⇒研究開発体制
⇒無形資産に係る戦略
⇒無形資産開発施設一覧
4号:特定多国籍企業グループの構成会社等の間で行われる取引において使用される重要な無形資産の一覧表及び当該無形資産を所有する当該構成会社等の一覧表
⇒無形資産の所有者一覧表
5号:特定多国籍企業グループの構成会社等の間の無形資産の研究開発に要する費用の額の負担に関する重要な取決めの一覧表、当該無形資産の主要な研究開発に係る役務の提供に関する重要な取決めの一覧表、当該無形資産の使用の許諾に関する重要な取決めの一覧表その他当該構成会社等の間の無形資産に関する重要な取決めの一覧表
⇒無形資産の契約一覧表
6号:特定多国籍企業グループの構成会社等の間の研究開発及び無形資産に関連する取引に係る対価の額の設定の方針の概要
⇒無形資産取引に係る移転価格ポリシー
7号:特定多国籍企業グループの構成会社等の間で行われた重要な無形資産(当該無形資産の持分を含む。以下この号において同じ。)の移転に関係する当該構成会社等の名称及び本店又は主たる事務所の所在地並びに当該移転に係る無形資産の内容及び対価の額その他当該構成会社等の間で行われた当該移転の概要
⇒無形資産の譲渡等
8号:特定多国籍企業グループの構成会社等の資金の調達方法の概要(当該特定多国籍企業グループの構成会社等以外の者からの資金の調達に関する重要な取決めの概要を含む。)
⇒資金調達方法
9号:特定多国籍企業グループの構成会社等のうち当該特定多国籍企業グループに係る中心的な金融機能を果たすものの名称及び本店又は主たる事務所の所在地(当該構成会社等が設立に当たって準拠した法令を制定した国又は地域の名称及び当該構成会社等の事業が管理され、かつ、支配されている場所の所在する国又は地域の名称を含む。)
⇒中心的な金融機能を果たす会社
10 号:特定多国籍企業グループの構成会社等の間で行われる資金の貸借に係る対価の額の設定の方針の概要
⇒金融取引の移転価格ポリシー
11 号:特定多国籍企業グループの連結財務諸表(連結財務諸表がない場合には、特定多国籍企業グループの財産及び損益の状況を明らかにした書類)に記載された損益及び財産の状況
⇒連結財務諸表
12 号:特定多国籍企業グループの居住地国を異にする構成会社等の間で行われる取引に係る対価の額とすべき額の算定の方法その他当該構成会社等の間の所得の配分に関する事項につき当該特定多国籍企業グループの一の構成会社等の居住地国の権限ある当局のみによる確認がある場合における当該確認の概要
⇒APA(税務ルーリング)の状況
13 号:前各号に掲げる事項について参考となるべき事項
⇒その他項目

どうでしょうか。かなり分かりやすくなったかと思います。もっと分かりやすくするためにこれらの項目をまとめてみます。

【開示項目まとめ】
⇒構成会社一覧(役員一覧、株主一覧)
⇒事業概要
⇒当社の強み
⇒主要商品(製品)の概要
⇒サプライ・チェーン図
⇒主要商品(製品)の市場の概要
⇒役務提供取引に係る移転価格ポリシー
⇒機能・リスク・資産分析の概要(一覧表)
⇒重要な事業再編取引等
⇒研究開発体制
⇒無形資産に係る戦略
⇒無形資産開発施設一覧
⇒無形資産の所有者一覧表
⇒無形資産の契約一覧表
⇒無形資産取引に係る移転価格ポリシー
⇒無形資産の譲渡等
⇒資金調達方法
⇒中心的な金融機能を果たす会社
⇒金融取引の移転価格ポリシー
⇒連結財務諸表
⇒APA(税務ルーリング)の状況
⇒その他項目

イメージの難しかったマスターファイルもこうすれば容易にイメージができると思います。そして、この要点をまとめたものこそが、マスターファイルの“目次”となります。マスターファイルには、これらのすべての項目を網羅的に記載する必要があるために、例えば当該事業年度において無形資産の譲渡等がなかった場合においても以下のように記載します。

■対象年度における重要な無形資産の譲渡等
対象年度において、重要な無形資産の譲渡等はありません。

また、次に掲げる部分に関しては、ローカルファイルとも密接にかかわってくる部分ですので、それぞれのファイルに齟齬が生まれないように気を付けて作成してもらえればと思います。
【ローカルファイルとの関係性】
⇒事業概要
⇒当社の強み
⇒主要商品(製品)の概要
⇒サプライ・チェーン図
⇒役務提供取引に係る移転価格ポリシー
⇒機能・リスク・資産分析の概要(一覧表)
⇒無形資産取引に係る移転価格ポリシー
⇒金融取引の移転価格ポリシー

今回はマスターファイルの開示事項について記載しました。難しい法律も要点をまとめるとイメージがつくかと思います。重要なことは「網羅性」と「同一性」ですので、全ての項目をピックアップし、移転価格ポリシーとローカルファイルと齟齬がないように作成してもらえれば幸いです。

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