2022年税制改正

2022 年 1 月 18 日

2022年以降に適用される税制として、「国税規則調和法」が公布されました。所得税法、付加価値税法などの複数の税法が一括改正されるもので、2020年のオムニバス法の一環といえます。2009年以来改正されることのなかった付加価値税法を含む、企業にとって影響の大きな改正がありますので、今回はその主な改正を見ていきたいと思います。

 

<付加価値税法>

2009年に最初の付加価値税法が制定されて以来、インドネシアではVATの税率は10%でした。2022年4月より、税率が11%になります。また、2025年までに12%にすることが決まっています。

前述の通り、インドネシアでは付加価値税法制定以来、一度も税率を上げた経験がありません。付加価値税率を引き上げた際にどの程度消費に影響を与えるのかは、国民性等によっても異なりますが、今回のその影響度を図ることが難しいです。

以下に述べるほかの税制改正にもいえることですが、細則やガイドラインはまだ制定されていません。消費への影響を抑えるために、軽減税率や自動車奢侈税減税(免税)を検討しているようですが、まだ具体案は出ていません。また、どんな基準で4月以降の税率が11%になるのかいまのところ明確になっていません。たとえば、2022年3月に納品をして、2022年4月に請求書を発行した場合は、11%になるのか。長期にわたるプロジェクト契約で、分割払いをしている場合に、2022年4月以降は引き続き10%でいいのか等、重要な論点が多く存在します。この点、インドネシアでは法律の施行がぎりぎりになったり、場合によってはバックデートになる可能性すらありますので、今後の細則の公表を注視していく必要があります。

 

<所得税法>

所得税法の主な改正は、①個人所得税の累進課税最高税率の引き上げ②現物給付を個人課税所得へ変更 がありますが、①については、課税所得が50億ルピア(約4,000万円)以上の納税者が対象の改正です。日本でもよく金融所得課税の「1億円の壁」がよく話題になりますが、一般に高所得になればなるほど、給与所得以外の分離課税所得(株式のキャピタルゲインなど)が多くなりますので、本改正で影響を受ける納税者は全体の1%にも満たないでしょう。日本人駐在員でも、ほとんどは影響がないと思います。そのため、②についてより詳しく見ていきたいと思います。

現物給付とは、社宅や車両、携帯電話など、現金を支給するのではなく現物を支給するものです。本改正によって、現物給付が個人課税所得へ変更となりました。いままでは、現物給付は個人の課税所得ではない一方、損金不算入扱いとなっていました。すなわち、個人では非課税で、会社側で課税という建付けでした。本改正後は、逆に個人の課税所得となり、会社側で損金算入可能(給与所得扱い)ということになりました。日本人駐在員のほとんどの方は、所得税の累進課税の最高税率である30%に達していることから、追加の課税所得はすべて30%で課税されることになります。法人税率は22%であることから、単純計算で8%のコスト増になる可能性が高いです。赤字などで法人税を支払っていない企業にとっては、それ以上のコスト増になります。

ただし、本改正後も、全従業員に対して支給される飲食物や、業務の実施に必要な現物物資(制服など)は、個人の課税所得とはならず、かつ損金算入も可能ないわゆる「福利厚生費」となります。

インドネシアのアパートの費用などは、1年前払などの形式が多いですが、その場合に支払った年度にすべて課税されるのか、月割りで按分して課税されるのかなど、こちらも細則が待たれるところです。

 

<異議申立て/税務裁判で敗訴した場合の罰金>

税務調査の結果に不服な納税者は、地方国税局に異議申立てを行うことができますが、異議申立てが却下された場合は、未納税額に対してさらに50%が上乗せされて罰金を科されていました。また、異議申立てにも不服な場合は、税務裁判に進むことができますが、税務裁判でも敗訴した場合は、同様に100%の罰金が科されることになっていました。これがそれぞれ30%、60%に引き下げられました。金利を考えるとまだ非常に高い罰金であることは間違いないですが、これらの罰金の存在が、異議申立てや税務裁判に進むことを躊躇する原因となっていたことから、多くの日系企業にとっては歓迎すべき改正といえると思います。

税務調査の流れと留意点-Ⅱ

2021 年 10 月 26 日

 

コロナ禍以降、インドネシアでは財政バランスが急速に悪化しています。財政補填のため、2020年から税務調査が頻繁に行われるような傾向にあります。また、指摘内容も言いがかりのようなものが多くなっているようです。これは、1人の税務担当官が、多数の税務調査案件を抱えているため、短期間で調査を終えざるを得ないことが影響しているようです。また、日本の感覚では信じられないことですが、税務署ごとにチャレンジングな税収ノルマが掲げられています。

インドネシアの税務調査は複雑です。現地駐在員がよく理解をしていないと、なにも知らないままローカルスタッフが進めてしまって、コントロール不能のまま、気づいたら徴税通知が届いている、なんてこともよく聞きます。

税務調査の流れは以下の通りです。

①税務調査開始通知書(SPPP)

②資料提出

③資料の精査及びフィールドワーク

④調査査定書(SPHP)及びポジションペーパーの回答

⑤ポジションペーパーへの回答

⑥徴税通知書(STP)の発行

⑦異議申立て

⑧税務裁判

前回は①~⑥までを見ていきましたので、今回は、⑦異議申し立ての流れと留意点を見ていきたいと思います。

 

【税務調査の流れと留意点】

 ⑦異議申立て

税務調査が完了し、徴税通知書(STP)が発行された後、この内容に不服の場合、次の異議申し立てのプロセスに進むことができます。STPまでの税務調査は、管轄税務署が担当しますが、異議申し立ては地方国税局が担当することになります。STPから3か月以内に、異議申し立てを行わない場合、STPの内容に同意したと見なされ、異議申し立ては不可能になります。

異議申立てに進む場合、STP通りの金額をいったん支払って進むのか、払わずに進むのかを選択できます。支払って進み、仮に異議申し立てが認められた場合、その分の利息を請求できます。払わずに進み、仮に異議申し立てが認められなかった場合、徴税金額にさらに50%上乗せされた金額が課せられます。

近年の統計では、異議申し立ての段階では納税者の主張が却下されることが多くなっています。その一方で、税務裁判まで進んだ場合に、納税者側の勝率は7割前後で推移しています。したがって、税務裁判まで進む覚悟のうえであれば、十分に勝訴できる案件も多いです。そのため、この異議申立ての段階で今後の戦略を決めておくことが重要になります。ここで考慮すべきことは下記の通りになります。

a. 異議申立ては誰が担当するか

b. いったん納税をするだけのキャッシュフローに余裕があるか

c. 過去の判例に照らして、どの程度異議申立てが認められる可能性があるか

d. 過去の判例に照らして、どの程度税務裁判に勝訴できる可能性があるか

e. 異議申立てが認められなかった場合の、追加の50%のペナルティーは、許容できるリスクの範囲であるか

f. 異議申立てが認められなかった場合に、税務裁判まで進むか

g. 税務裁判まで進むことを想定している場合、その段階でいったん納税をしたうえで進むか

h. 税務裁判を担当できる税理士・弁護士がいるか、またそのコストはどのくらいになるか

 

a. の「異議申立ては誰が担当するか」ですが、税務調査対応まではしたことがある財務マネジャーは

一定程度いると思いますが、異議申立てまで自身をもって対応できる財務マネジャーはほとんどいないのが現実です。そのため、税理士やコンサルタントに依頼をすることが一般的です。

 

異議申立てのプロセスは、まず異議申立て申請書を管轄の税務署に提出することから始まります。通常1~6カ月程度で、地方国税局から資料要求がなされます。その後は税務調査の②~③の流れに近いものとなりますが、異議申立てでは税務調査と比べて面談の機会が少ないことが多いです。通常10~12カ月程度で、審査結果通知(SPUH)が送られてきます。SPUHを受け取ったら、内容を精査して、不服があれば10営業日以内に反論書を提出します。反論書を提出しない場合、内容に同意したと見なされますので、迅速な対応が必要です。反論書を提出したのち、最終討論会議の日程が設定され、地方国税局に呼ばれることになります。そこで最終的な決定が言い渡されます。この段階では決定の説明のみになりますので、会議の中で新たな反論をしても覆ることはありません。

 

異議申立て決定が言い渡されたら、決定通りに納税をするか、控訴状を税務裁判所に提出して、⑧税務裁判に進むかの選択になります。税務裁判の流れと留意点は次回以降見ていきたいと思います。

 

税務調査の流れと留意点

2021 年 9 月 9 日

今回は、税務調査についてです。

コロナ禍以降、インドネシアでは財政バランスが急速に悪化しています。財政補填のため、2020年から税務調査が頻繁に行われるような傾向にあります。また、指摘内容も言いがかりのようなものが多くなっているようです。これは、1人の税務担当官が、多数の税務調査案件を抱えているため、短期間で調査を終えざるを得ないことが影響しているようです。また、日本の感覚では信じられないことですが、税務署ごとにチャレンジングな税収ノルマが掲げられています。

インドネシアの税務調査は複雑です。現地駐在員がよく理解をしていないと、なにも知らないままローカルスタッフが進めてしまって、コントロール不能のまま、気づいたら徴税通知が届いている、なんてこともよく聞きます。そこで今回は税務調査の流れと留意点を見ていきたいと思います。

 

日系企業の場合、税金の還付請求をトリガーにして税務調査が開始されることが多いです。この場合は、税務調査は1年以内に完了することが要求されています。また税務署は、税法遵守を行っていない可能性のある納税者を自動で抽出するシステムを持っています。そうして抽出された企業に対して、税務調査開始の通知が届くこともあります。

自動抽出の基準のひとつに、「インドネシアより低い法人税率の国に所在する国外関連者と取引している納税者」というものもありますので、シンガポールなどの会社と取引を行っている会社はより注意が必要です。

税務調査は2種類に大別されます。全ての税目を調査範囲とする All Tax Auditと、税務調査の範囲が特定の税目に限定された Single Tax Audit です。通常は、法人税の還付請求をした場合はAll Tax Audit、VATの還付請求をした場合は Single Tax Auditとなります。したがって、VATの還付請求のみをした場合は、源泉税や法人税について調べられないことが多いです。

 

税務調査の流れは以下の通りです。

1.税務調査開始通知書(SPPP)

2.資料提出

3.資料の精査及びフィールドワーク

4.調査査定書(SPHP)及びポジションペーパーの回答

5.ポジションペーパーへの回答

6.徴税通知書(STP)の発行

7.異議申立て

8.税務裁判

このうち今回は1~6までを見ていきたいと思います。

 

1.税務調査開始通知書(SPPP)

税務調査は、税務調査開始通知書(SPPP)が送付されてくることから始まります。以前は税務担当官が直接事務所にやってくることもありましたが、コロナ禍以降は郵送が多いようです。SPPPには、初回の税務署との面談日程や、提出資料が記載されています。

 

2.資料提出

原則としては1週間以内に提出しますが、現実的に難しいことがあります。税務署との交渉により、1か月程度の延長が認められます。提出資料は多岐にわたり、中には提出データの取りまとめ方法がローカルスタッフではよくわからないものもあると思います。税務調査対応に不慣れな場合は、この段階から税理士や税務コンサルタントにサポートを依頼することを考慮しておく必要があります。また、どういった資料提出依頼があって、それに対してローカルスタッフは何を提出する予定なのか、把握しておくことが望ましいです。過去に税務的にグレーな処理を行っている場合はなおさらです。

 

3.資料の精査及びフィールドワーク

資料の提出が終わったら、担当官が資料の精査とフィールドワークを行います。フィールドワークは、コロナ禍以降行われないことも多く、メールでのやりとりのみとなることがあります。この間に、追加の質問や追加のデータ提出依頼があります。また、次のステップのSPHPが正式に発効されると、ポジションペーパーの提出をしても覆らないことが多いです。したがって、提出したデータに関する無用な誤解を生まないためにも、この段階で担当官とのコミュニケーションを密に行っておき、自社の見解をはっきりさせておくことが肝要です。特に、担当官との関係性が良好であれば、正式なSPHPが発行される前に、どういったポイントを指摘する予定なのか、教えてくれることがあります。その中に明らかに反論可能なものが含まれていれば、事前に反論しておくことが必要です。通常は3~6カ月程度となることが多いですが、コロナ禍においては1年以上の長期にわたることもあるようです。これは、担当官が現在多くの案件を抱えていることが影響していると思います。1年近く連絡がなかったからといって、税務調査が何もなく終わったとは限りませんので注意が必要です。

 

4.調査査定書(SPHP)及びポジションペーパーの回答

担当官から、査定内容と納税不足内容を記載したSPHPが発行されます。この査定内容に不服がある場合、7日以内に答弁書(ポジションペーパー)を作成して提出することができます。期限内にポジションペーパーを提出しなければ、査定書の内容に同意したとみなされます。前述の通り、SPHPが正式に発効されると、ポジションペーパーの提出をしても覆らないことが多いです。また、SPHPには税務署側の計算根拠が示されていないことが多いです。これらの点は、3.の段階でクリアにしておくことが非常に重要な点となります。

 

5.ポジションペーパーへの回答

担当官は、ポジションペーパーを受領してから2営業日以内に、最終的な徴税通知の内容を決定する必要があります。また、この段階で、最終面談の日程が通知されます。最終面談には、社長のほか、資格をもった税理士・コンサルタントやあらかじめ通知しておいた従業員は同席可能ですが、通常は外部のコンサルタントの同席は認められません。面談当日はその場で徴税通知内容が伝えられ、査定書に同意する場合は、その場で査定書にサインをします。SPHPの段階で税務署の指摘内容はわかっていますので、同意するか、それとも異議申し立てをするのか予め戦略を決めておくことが重要です。また、課税内容の修正の要請や、納税者の見解を述べることはできますが、この段階になって反論したとしても、徴税結果が覆ることは基本的にないのが現実です。

 

6.徴税通知書(STP)の発行

5.の最終面談の後に、徴税通知書(STP)が送られてきます。5.で同意している場合は、発行日の1か月以内に納税する必要があります。この内容に不服の場合、次の異議申し立てのプロセスに進むことができます。この場合、STP通りの金額をいったん支払って進むのか、払わずに進むのかを選択できます。支払って進み、仮に異議申し立てが認められた場合、その分の利息を請求できます。払わずに進み、仮に異議申し立てが認められなかった場合、徴税金額にさらに50%上乗せされた金額が課せられます。

 

7.及び8.のプロセスは次回以降見ていきたいと思います。

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